月と太陽
Aさん
月と太陽
いつも君を見ていた。
雨が降る午後3時。授業の終わりを鐘が告げる。
窓際かつ一番後ろの席だから人なんか誰も来ない、ましてや僕みたいなところに。
ため息を吐き、机に伏せようかと思った時。
僕は君を目で追いかけてしまう。
君は1人廊下に出て水を飲む。この席はたまたま廊下が見やすい位置にある。
幸運なんだろう。君を見ていると僕は見惚れてしまったせいなのか顔が熱い。
そして君は他の女子たちと話しながら席へと着く。
一番前の窓際、それが君の席だった。
そしてなぜか君はいつもどこかを見ている。
空を見たりしているが、何を見つめているのかはわからない。ゆっくりと流れる雲を見ているのか。それとも大きく雄大な山を見つめているのか。
またまた校庭の男子を見つめているのか。……男子だったら少し嫌な気持ちになる。
でも何かわからない。
唯一わかったのは君は何か一点を見つめている、ただひたすらにじっと。
そんなこんなで学校が終わる。
いつも通りだ、本当は君に話しかけたいのに出来ないで一日が終わる。
それが普通になってしまった。
重い足を無理に動かしながらゆっくりと僕の家を目指す。
今日の体育で走り過ぎたのが原因だろう。
そんな時、曲がり角の先で君を見つけた。
本来ならば家に帰るべきだろう。だが君がいるほうに行ってしまう、方向が全然違うのに。さっきまで重たかった足も軽快に進む。
街の見慣れない風景に足取りを留めらないように、見失わないようにひたすらに近づこうとした。
やっと近くまでこれたかと思ったがいつもは通らない十字路で見失ってしまった。
夜の曇に隠れてしまう月のように。スッと消えてしまった。
昨日は夏になったかのような暑い日だったのだが、今日は雨がしとしとと降っている。
僕は雲が嫌いだ。きれいな月が少しも見えなくなってしまうからだ。救いは太陽がぼんやりと映してくれる。
太陽は月をいつでも映し出してくれる。ただそれだけでも良いんだ。
そんな太陽が好きだ、勿論月も好きだがまた別だ。
そんなことを考えながら家に着く。
昔から住んでいるアパート。母や父と住んでいた家。
もう母や父は居らず、僕1人だけで住んでいる。簡単な仏壇に線香をあげ、簡単なご飯を食べる。
親がいないから生きるのにも必死だった。アルバイトを毎日して生計を立てているが、それでも好きなものが買えるようなことはできない。
だからケータイのようなものはない、ガラケーもないから連絡手段は家にある固定電話。
友達と呼べる人がいないから電話もかかってこない。
こんなことすらもできない僕が情けないと思う。
友達を一人もつくれず教室の端でいつも1人。
そんな時に君と目が合った。
あんな綺麗な澄んだ瞳を見せられたら、好きにならない人はいないだろう。
でも君はクラスの女子の中心的な人物だからこんな僕とは釣り合うはずがない。
だからこんな僕を恨む。
夜8時に家を出る。
コンビニのアルバイトに行くのだ、明日は確実に筋肉痛になるだろう。
今ですら脚が痛い。
アルバイトもやりはするが好きでやっているわけでもない。
アルバイトリーダーが文句を言うから好きではない、レジで文句を言ってくる人もいる。
それもこんな僕だから仕方ないと思う。
しょうがないんだ、そう心に告げ続ける。
======
深夜2時家に帰る。
今できる限りでフルで働いてもたったこれだけ。
どうすれば明日も生きれるのだろうか、そんなことしか考えていない。
コンビニには今日は十数人くらいしか来なかった。
やはり雨だからだろうか、雨だから外に出たいなんて人は少ないし。
裏口から外に出るとすっかり雨がやんでいた。
傘もさそうとしたが意味は無かったようだ。
そんな時見えたのは1つの星と月だった。
月は輝いてる。君のようだった。
高嶺の花、言い表すのが難しいがそんな感じ。
いつも反対側にいるようなものだった。
まるで月と太陽のようだ。
……やっぱりダメな人間だな、いつも君と比較してしまう。
悪い癖だ。
安っぽい古いアパートの前に着いても電気の一つすらつかない。
暗闇の中、鍵を取り出し204号室に入る。
現実に傷つく番号としていいのかもしれない。
4は現実的。2は傷付きやすい。0はそれを強調する。
だから現実に傷つく。
でもこんな僕にもいいと思うところもある。
その1つが僕の家は綺麗ということだ。
母に綺麗にすればココロも綺麗になると小学校のころから言われて育った。
だから毎日掃除をしている。
僕のココロも綺麗にできないものだろうか。
綺麗に出来ないのならいっそのこと死んでしまった方がいいのか?
そんなことが脳裏によぎったがそんなことをしたらダメだ。
死なずに君を見つめていたいから、ただそれだけの理由で生きていた。
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約1ヶ月経ったころ。
ご飯が終わったら君と少しだが目が合った。
琥珀にも負けない澄んだ瞳だった。何か吸い込まれてしまうような天性の瞳。
そんな都合のいい時間もすぐに終わってしまう。
君は廊下に出て行った、そして今日は雲1つない日だった。
君は外を見ている。見つめている。
目線の先は太陽だった。
僕は思った。『僕と同じ所もあるかも』と。
いつも太陽はみんなを照らしてくれる。月が見れるのも太陽のおかげだ。
違うと思ったものもそれぞれ1つの関係があるのかもしれない。
たった1つの関係でもそれは重要なものなのかもしれない。
これは思い違いや、勘違いかもしれない。
だが、僕はそう感じた。そう解釈した。
そんなこと考えつつ君を見ているとこちらを見てくれた。
僕は一礼する。すると君はニコッと笑ってくれた。
無性にここから逃げてしまいたくなるようだった。
僕のほほが熱い、熱すぎる。
こんな僕にも笑ってくれた、それがとても嬉しかった。
僕なんかにかかわってくれないと思っていた。
しかし皆になるべく平等に優しいのだと気付かされた。やはり君は僕の初恋の人だ。
僕は君を見る人。君はみんなから注目される人。
そんな関係なのかもしれない。……少し僕のココロの埃がとれた気がした。
そんな時。
こちらに来た君がつまずいてしまったのだ。
僕は驚く暇もなく飛び出す。
一瞬が遅く感じた。君とゆっくり手が近づく。
奇跡的に手を取ることに成功。
君の手は温かかった。甘いシャンプーの香りも感じる。
最後の決め手は、真っ赤にしている乙女の顔。僕は立たせた後にすぐ手を外す。
「……すみません、僕なんかが触ってしまって」
「あの、…………ありがとう」
君からの一言。ただそれだけ。
ただそれだけなのだが僕からみれば大きな1回だった。
そう。
こんな関係もいいのかもしれない。一瞬太陽と月が、変わった気がした。
この後に君を見るとニコッと微笑んでくれるようになった、ご飯も食べたりすることもしばしば。
「ねぇ、この後空いている? ……私とご飯食べよ!」
「よろしくお願いします……!」
「べつに硬くならなくていいんだよ? もう……恋仲、なんだから……」
手を引かれて今日檻の外へと出る。
周りの視線が少し痛いが、今までより気持ちが楽になったように感じる。
僕は今、殻を破ったような感じがして。
最初から運命の糸は繋がっていた、惹かれ合っていたんだと思う。
こんな気持ちも、初恋の人になったのも。
こうして一緒にいるのも、君のおかげだろうか……。
この素直な気持ちと君の笑顔を守っていきたいと思ったのは今でも忘れられない。
そして、何事にも反対に見えるものも1つだけでもつながりがある。
友情、絆、恋人、ライバル…………それはいいものなのかはわからない。
でもこの今しかない『関係』を大切にしたほうがいいということは言える。
END
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読んでいただきありがとうございます。
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月と太陽 Aさん @mikotonori812
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