折り鶴

綴。

第1話 折り鶴

 とても穏やかな日。

 私は小さな舟の先頭に座っている。真っ赤な和傘を彼が持ち、私ににっこりと微笑んだ。


 水の流れはとても緩やかで、船頭さんが長い竹で舟を操る。舟の先が水を掻き分けながらゆっくりと進み、小さな波を作っていく。


 少し冷たくなった風が吹き、色づき始めた紅葉の葉がひらひらと舞った。

空はすっきりと晴れ渡り、雲がふんわりと浮かんでいる。


 今日は私たちの結婚式だ。


 今日を迎えるまでの道のりは決して平坦なものではなかった。

 彼の手を振り払った事もある。

 彼が私の手を離した事もある。


 泣きながら過ごした夜もたくさんあったし、もう信じられないと背中を向けた事もあった。


 だけど今、私たちは並んで舟の先頭に座っている。   真っ赤な和傘を彼が持って。

 彼は袴姿で、私は白無垢を着て。

 私はあなたの色に染まります、と。


 小さな舟に両親と家族を乗せて、水の上をゆっくりとゆっくりと進んでいく。


「おめでとうございます!」

と橋の上から見知らぬ人が拍手をくれて、私たちはお辞儀をする。


 真っ赤な和傘をたたみ、頭を低く下げて橋をくぐり小さな門にたどり着いた。

 参列者が私たちを出迎えてくれる。


 これから先も決して平坦な道ではないだろう。

 また、彼の手を振り払ってしまうかもしれない。

 また、彼が私の手を離してしまうかもしれない。


 それでもふたりで一緒に歩いて行こう。

 この緩やかな水の流れに身をまかせ、どこまでもどこまでも進んで行こう。


 優しい気持ちを言葉に変えて毎日あなたに届けよう。

 大切な気持ちを笑顔に変えて毎日あなたに届けよう。


 疲れてしまったら一緒に立ち止まり、楽しい時は一緒に笑い、悲しい時は一緒に泣こう。



 父や母がそうしてきてくれたように。

 私たちもやってみよう。


「おめでとう!」

「おめでとうございます!」

「はらー、綺麗ねぇ」

「お幸せにねー」


 たくさんのお祝いの言葉がひらひらと舞って、私たちに降り注いでくる。


 その手にいっぱいの願いを大切そうに持って、ゆっくりと歩く私たちにそっと降らせてくれる。


──いつまでも幸せでありますように──


 願いを込めて作られた、色とりどりの小さな小さな折り鶴たち。


 小さな折り鶴は私たちの上から降ってくる。

ひらりひらりと美しい光に包まれて。


 私たちはこの緩やかな水の流れのように新たな門出を迎えた。



          ── 了 ──


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折り鶴 綴。 @HOO-MII

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