第46話 最終話

 あの襲撃から数ヶ月が経ち、シンの星は調節されながらもぐんぐん育っていった。星の核の周りにあった粒も、星にあらかた吸収され、ルーダの星が元あった場所に収まった。

 シンの聖域は星があった空間と切り離され、創造神たちの聖域と同じ空間に移動した。


「星の見た目が完成したのはいいが、地上がどうなっているか分からないな」


 シンの聖域では、空に星を映し出し、経過が分かるようにしている。シンは腕を組んで唸っている。

 ルーダの場合、眷属たちが地上に降り立ち、いろんな場所に赴き、眷属の目線がルーダの池に繋がっていた。

 シンの眷属はまだ年齢が若いため、地上での活動を控えている。


「どうしようかな」

「カミサマ、ドシタ?」


 シンバンがシンの様子を見にきた。シンが悩んでいるのを見て気になったのだ。


「あのな、地上がどうなっているのか見たいんだけど、まだお前たちは小さいだろう?危険に対応できるか不安なんだよね」

「キュー」

「それに出来たばっかりだから、空気とか土とか生き物が住めるか分かんないし」

「キュキュー。ワカンナイ」


 シンバンはシンの言葉を真似した。


「なら、おぬしが地上に赴けばいいんじゃ」


 声のした方を見ると、そこには創造神とハザマがいた。


「ご無沙汰してます、シン様」


 ハザマはペコリとお辞儀した。


「こんにちは。えっとワタシが行けばいいというのは…」

「前にあの事件での褒美をあげろ、と聖竜から言われてな。シンに何が良いか聞きに来たんじゃが…シンが星に自由に行き来できたら良いんじゃないのかの」

「そうですね。ワタシが行けば地上の環境も分かりますし」

「あまり自身の星に行き来はさせないようにしておるんじゃが、シンは特別じゃ。月に1回という回数付きじゃが許可しよう」


 創造神はシンの頭に手を置き、ポワッとほのかな光を浴びせた。


「これでおぬしも地上に行けるぞ」

「ありがとうございます」

「どうしますか?今からでも行けますが」

「ハザマならすぐに移動出来るぞ」


 出かけるという話を聞いて他の眷属も集まってきた。


「神さま、どこかに行くの?」

「楽しいところ?」

「がう?」


 シンの周りで3人は期待した目をしている。近くでシンバンは何やら集中している。


「キュキュキュッ」

「がう?」


 集中しているシンバンにガルムが近づいて鼻をフンフンしている。

 

「シンバン?何してるの?」


 エウポリアとネロもシンバンに気付く。シンバンは両手を包み込むようにして握っている。


「ん?」


 シンもシンバンに目を向けると、シンバンがパッと嬉しそうな顔をして


「キュウ!デキタ!」

「できた?」

「ミテ、カミサマ!」


 と、シンバンがシンの目の前で手を出した。パッと手を広げるとそこには緑色に光る丸いものがあった。


「シンバンこれは?」

「コレ、タネ。オッキイキニナル」

「おっきい、きになる?」


 エウポリアが首を傾げる。あぁ!とシンが頷き


「大きい木、大樹になるってことだな」

「キュ!ソウ!」

「ふむふむ。シンバンは種を生み出したってことじゃな。ならば早速埋めに行かねば」

「神さま、どこに行くの?」

「ワタシが創った星に行くんだよ」

「えっ!わたしも行きたい!」

「キュ!シンバンモ」

「私も行くわよ」

「がるっ!」


 みんなも行くというので、シンバンはハザマを見た。


「構いませんよ。私に触れていればいいので」



◇◇◇


 シュン!と音がして、シン一行は地上に降り立った。地上はまだ薄暗い。空には薄いガスがあるようだ。地上は草木一本も生えていない。


「一応息は出来ますが、長居は危険です。その種を植えたら戻りましょう」


 眷属たちに抱きつかれてるハザマは、1人ずつ丁寧に降ろしていった。


「キュッ!」


 シンバンは降ろされたと同時に駆け出し、適当なところの地面を手で掘っていた。ガルムがそれを見て手伝う。ガルムだと掘るのが早い。

 そこにシンバンは先程の種をポトリと落とし、土を被せていった。


「キュ!ウメタ」

「埋めたな」

「水はかけないの?」


 と、ネロが言う。持ってくるのを忘れた。するとエウポリアがコップを異空間から出して


「聖牛さまの牛乳、かけてみる?」


 と、提案してくる。植物に牛乳は…と難色を示しているとハザマが


「聖牛さまの牛乳は何にでも効くので大丈夫ですよ。創造神さまの庭にも水で薄めて撒いてるので、虫も付きませんし」


 虫除けプラス栄養剤なのかな、とシンは思った。あまり気は乗らないが、今から成長していく木ならば、これくらいはあげておかないと。環境を整えてくれる大事な木なのだから。


「じゃあ、かけるね」


 ジャバー!とエウポリアが豪快にかける。こういうところは聖牛に似ている。


「あっ、見て見て!」


 かけたそばからぴょこんと芽が出てきた。シンバンは喜んで芽を撫でている。


「キュ!ナマエ、ツケル?」


 シンバンはシンに提案する。


「名前か。あったほうがシンバンもお世話しやすいかな」

「ウン!」

「うーん、そうだな…ユグドラシルってどうかな」


 前世でも物語の大樹の名前は、この名前が定番だった。


「ユグ…ユグドラシル…ムズカシイ」

「何度も呼べば慣れてくるよ」

「ユグ、ユグ、ガンバテ!」


 シンバンは小さな芽を撫で、エールを贈る。


「さて、そろそろ戻りましょう。この星が安定するまでは私も同行しますので」


 そうハザマが言うと眷属たちはまたハザマに引っ付いた。シンもハザマに触れると一瞬でシンの聖域に戻った。

 すると、創造神はシンのロッキングチェアに座って揺らしながら、クルクルと話していた。


『あ、主人どの!なぜ私を置いていくのですか!』

「ごめんごめん。急だったから。創造神様の相手をしてくれてたのか」

『えぇ。半分寝ておられましたが』

「だって意外と心地良くての。ついウトウトと」


 半分寝ぼけた創造神が、うあー!と背伸びをする。


「それで上手くいったかの?」

「えぇ。すぐに芽が出ました。ユグドラシルと名付けまして」

「ふーむ。名前があると愛着がわくの。でもシンよ。ひとつ忘れておるぞ」

「なんでしょう?」


 シンはそう言われても思い当たらない。


「おぬしの星の名前がまだであろう?」

「あ、忘れてました」

「こっちの方が重要じゃろう?眷属と一緒じゃ。名付けたらおぬしとの繋がりが濃くなる。早く付けてやれ」


 と言われてもすぐには出てこない。


「うーん…うーん。ガルド…かな」

「ガルドか。何か意味があるのか?」

「いえ…ルーダさまの星がワタシが居た時に別名でガイアと呼ばれていたので、似た感じに」

「なるほど。ルーダの星を忘れぬためじゃな」

「そうですね」


 なんとか絞り出した案だったが、認められたようだ。


「ではこれからはガルドの神じゃな。頑張るのじゃぞ。まだまだ始まったばかりじゃ」

「頑張ります」

「まぁ、今まで最短で星を創り上げた神じゃからな。わしはもっとかかると思っておったがの」

「えっ。そうなんですか?」

「早過ぎじゃ。これもシンの能力かのう」


 創造神は自身の髭を触りながら笑う。


「ちゃんと管理するのじゃぞ。おぬし次第だからの」


 創造神はそう言うと溜まった仕事を片付けるため、ハザマと帰っていった。



◇◇◇


 それから幾年かが過ぎた。


 眷属たちも成長し、ガルドに降りて地上を見回っているようだ。

 シンバンの殻は、成長するにつれて被れなくなり、聖羊が作った薄布を角に引っ掛けて顔を隠すように垂らしている。シンバンからはみんなが見えるが、みんなからはシンバンの顔が見えないような仕組みになっている。


 聖虎の弟子は再度シンに手合わせを願い、試合をしたがやはりシンには勝てず、渋々シンの眷属になる。シンもあれからたまに聖虎と稽古を続けていたのだ。聖虎の弟子は、アグニと名付けられ、アグニもたまに地上に降りている。


 他にも眷属は増えたが、鼠と猫は相変わらず派遣の扱いだ。顔を合わせば猫が鼠を追いかけ回すのでシンは眷属にするのを諦めた。


 地上に生えたユグドラシルは、聖牛の牛乳のおかげか、ぐんぐん成長している。この間シンバンと様子を見に行ったが、大樹の中から、手のひらくらいの大きさの少女が出てきた。シンとシンバンの周りをぐるぐる回り、シンバンにビタっと引っ付いた。

 一応ユグドラシルにとってはシンバンは親なので、ガルドにいる時くらいは好きにさせよう。ユグドラシルのおかげで大気も安定し、空のガスも見えなくなり太陽の光が届くようになった。環境が整えば、あとはいろんな植物、生物が増えるようになればいい。エルフやドワーフなどいれば大地を荒らさずに済むだろう。

 他の種族も現れてくれればいいが


「ヒト族って要るかな…」


 自分も含め、ヒトには難色を示す。文明が進めばルーダの星のようになる可能性もある。それは他の種族も同じことだが、ヒト族の発展や対応力、応用は群を抜く。

 このガルドでは自分の眷属が聖獣として治めるようにするが、もし何かあれば


「まぁ、ワタシがなんとかするしかないな」


 そんなことにならないように見張る必要がある。


「忙しくなるなー」


シンは背伸びをしていると、エウポリアやネロ、シンバンやガルムがまとわりつく。体は大きくなってもまだ心は子どもだ。


「神さま、星を見るの終わった?」

「キュッ。遊ぼうよ神さま」

「ちょっと、神さまは疲れてるんだから昼寝しましょ」

「僕とボールで遊ぼ。がるっ!」


 4人がシンを取り合う。シンはガルムのふわふわな毛並みに負けそうになる。


「待って待って。ちょっと休ませて…ぐー」

「あー!神さま寝ちゃった」

「ガルム、動けないわね」

「僕の毛並みには神さまも敵わないね」

「じゃあ、我も寝よう。キュッ」

「わたしもー」

「私も昼寝しましょ」


 そうしてシンと眷属たちは仲良く丸まって昼寝をするのであった。



おわり。



⭐︎⭐︎⭐︎


この物語はこれにて終了です。

短い間でしたが、読んでいただきありがとうございました。

この物語の世界観を引き継いだお話、

「ハーフエルフは外が眩しい」を

近々再開します。

そちらもお楽しみいただければ幸いです。




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星が消滅したのでイチから創り直します。 ミナヅキカイリ @kairi358

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