第45話 再会後の2人

「聖竜様ー」

『どうした、エウポリア』

「あの、聖牛さまの秘書さんは見つかったのかな」


 数日、そばで聖牛の悲しそうな顔を見ていたエウポリアも気分は少し下がり気味だった。


「第13秘書は聖牛さまの聖域にいましたよ」


 と、第5秘書がメガネをキラリとさせ、エウポリアに応えた。


「えっ?聖域のどこに?」

「聖域の端っこに魂が引っかかってました。聖牛さまが発見し身を乗り出して捕まえまして、 聖牛さまが落ちそうになっていたところを、眷属たちが間一髪足を掴んで引き戻したそうです」

『我か聖鳥に言えば、飛んで捕まえたのだが』

「考えるより手が出たんでしょう。そのあと創造神様へ渡し、一旦浄化させて、またこちらに戻れるか分かりませんが、肉体も与えられまた一からやり直しです」

「あの、浄化というのは?」


 と、シンがはい!と手を上げた。第5秘書は続けて


「浄化というのは、悪きものに魂が触れられた者や動物などを綺麗さっぱり清めることです。そのため、魂も再構築されます。前世の記憶も忘れます」

「聖牛さまやわたしのことも?」

「そうですね。忘れてしまいます」

「そうなのかー」


 自分のことは良いが、聖牛のことも忘れてしまうのは悲しいとエウポリアは思った。それを見た第5秘書は、こほんと咳をし、


「まぁ、たまーに。稀に何かの拍子に前世のことを思い出した、という方もいらっしゃいますね…」

「えっ?そうなの?」

『おいおい、そなた。それは万に一のことであろう?』

「ですから、たまーに、ですよ」


 ちらりと第5秘書は聖竜を見る。覚えていたとしても、それは一瞬の出来事だ。次の瞬間には忘れる。それは教えないほうが今のエウポリアには良い。もしかしたらの期待を持たせてあげたい。


「とりあえずは、第13秘書が無事に創造神様に保護されたので安心しましょう」

「そうだね!」


エウポリアはシンバンの手を取って、左右に腕を振った。嬉しくてそうしたのだが、シンバンは振り回されてアワアワしている。


「聖猿様やルーダさまは?」


 シンが問うと


『聖猿達は自分の聖域に帰って行ったぞ。ルーダや眷属たちも一緒に』

「ルーダさまは聖猿様のハンマーに取り憑いてるんですか?」

『それについては聖猿も考えがあるらしくてな。何やらソワソワしてたが…』

「おばあちゃんは聖蛇さまと一緒に帰ったわ。もうちょっと居ても良かったのに」


 ネロは祖母が帰ってしまい、シュンとしていた。


『しかしな、ネロよ。そなたの祖母の心の霧が晴れたではないか。ルーダとも会えるようになったしな。前より元気になったのは確かだ』

「そうですけど…」


 まだネロは寂しがっている。そこへエウポリア、シンバンがネロを抱きしめる。ガルムはペロリとネロの顔を舐める。


「うぶっ。ガルム。舌がザラザラじゃない。ふふっ」


 ガルムのニコリとした顔を見て、ネロもつられて笑う。やはり子どもたちはお互いがお互いを支えているのだ。


「自由自在に他の聖域に行けたら、ネロも嬉しいのかな…」

『この星の神であるそなたは難しいかもしれぬが、眷属なら縛りがないから、行けるかもしれぬ』

「また聖竜様は適当なことを言って。創造神様に怒られますよ」

『我はただ、可能性があると言ったまでである』


 第5秘書に注意された聖竜は言い訳をした。


『そなたも先程エウポリアに可能性のある話をしたであろうが』

「それも含め、創造神様やハザマ様に確認を取るつもりであります」


 と、しれっと言ってのけた。ちぇっと舌打ちをした聖竜は


『まぁ良い。それにシンにも迷惑をかけた詫びを考えなくてはな。ひとつくらい褒美をあげても良いであろう?』

「ワタシに、ですか?」

『我が創造神に話を通そう。何が良いか考えておいてくれ』


 そう言うと、聖竜はまだ仕事が残っていると秘書に言われ、渋々シンの聖域を後にした。聖竜達が帰ったあと、まだ疲れが残っているシンはベッドに横になり、クルクルにあとは任せて眠りについた。



◇◇◇



『うーん。あいつにはこの色が良いかな』

「ルーダさまらしいですね」

『俺のハンマーに取り憑くよりいいんじゃねえか?』

「そうですね。何の装飾に付けるか、お考えがあるのですか?」

『まあな』


 聖猿と第7秘書が話している間、ルーダは聖猿の眷属たちに歓迎されていた。星から離れられなかったルーダだが、ハンマーに取り憑いているうちは、どこにでも行ける。だから初めて聖猿の聖域に行けてルーダも嬉しいのだ。


「ねぇ、聖猿様は何をしているのかしら」

「我も分からぬけれど、ルーダさまを喜ばせるためにしていることは確かだ」


 ルーダの眷属の蛇と狼は、ルーダと聖猿を交互に見ている。2人がまた一緒に暮らせるようになって良かったと思っている。


「それにしてもルーダさまっていつからあの杖に居たのかしらね。私たちも気づかなかったわ」

「我は奇跡という言葉は信じない質だが、ルーダさまにまた会えると信じていた。我らの知らない何かが叶えてくれたのかもしれぬ」

「そうね、そういうことにしておきましょう」


 眷属たちの話を小耳にしながら、聖猿の眷属の接待を受けている。自分でさえ、なぜシンの杖の中にいたのか分からないのだ。幸いクルクルは自分の存在を必要な時まで黙っていてくれた。聖猿は何か気づいていたかもしれないが。


 2週間後、聖猿はルーダを呼んで


『これ、お前にあげるよ』


 と、ルーダに手渡したのは、表は狼、裏は蛇の横顔の意匠があるペンダント。その目にはそれぞれ青い宝石がはめ込まれている。


「これ…」

『いつまでもハンマーに取り憑いてるのは嫌だろ?一応俺の持ち物だし。これなら首に下げられるし軽いから、お前も動きやすいと思うんだが』

「彫ってあるのは、私の眷属たちね。この瞳の青い宝石は?」

『ラピスラズリという宝石だ。数が少ないから小さいけどな。幸運のお守りみたいだぜ』

「あの子たちの目と同じ色ね」


 ふふふ、とルーダは笑う。


『お前の好きな色だろう?』

「そうね。秘書と2人で何してるんだろうと思ってたけどこれを作ってくれてたなんて。初めての贈り物だわ」

『そうだったかな』


 ルーダはハンマーからペンダントの方へ意識を移す。一旦消えて再び現れるとルーダの首にはネックレスが飾られていた。


『これで破壊神の聖域にも行けると思うぞ』

「あなたが連れてってくれるんでしょう?楽しみだわ」


 ルーダはネックレスを撫でながら聖猿に笑顔を向けた。

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