第44話 頑張った

 シンが目を覚ましたのは、あの襲撃から3日経ったあとだった。

 いつの間にかベッドがあり、シンはそれに寝かされ、シンのそばにはシンバンが椅子に座ってコックリうたた寝をしている。

 シンはゆっくり起き上がり、シンバンの頭を撫でた。シンバンは、はっ!と目が覚めてシンに気付くと


「キュー!」


 ベッドをよじ登ってシンに抱きつく。顔に抱きついているので、息がしづらい。


「シ、シンバン…苦しい…」


 と、顔に抱きついているシンバンをバリッ!とひっぺがす。


「ギュッ!」


 痛そうな声を出したので、慌ててシンは自分の膝の上にシンバンを置いた。


「ごめんごめん。シンバンも怪我をしているんだったな。痛かったか?」


 あの男に脇腹を掴まれたシンバン。火傷みたいになっていたようだが、今は包帯が腹に巻かれている。


「キュ…」

「ん?」


 シンバンが口をモゴモゴさせている。


「キュ…イタ、イタク…ナイ!」

「おおっ!?」


 いきなりシンバンが喋り出したのでシンはびっくりした。


「なんだ?シンバン。喋れるようになったのか?」

「ウン!」

「そうかそうかー」


 シンはシンバンの頭を撫で、ニコニコ笑う。するとそこへ


「あ!神さま!起きてる!」

「おはよう神さま」

「がうー!」


 エウポリア、ネロ、ガルムがぞろぞろとやってきた。エウポリアの手には、何やら前世で見慣れた白いビンを持っている。


「エウポリア、それは?」

「これは聖牛さまから貰った牛乳だよ」

「神さまが起きたら飲ませなさいって」


 エウポリアとネロが説明してくれる。なるほど。ならば正式な飲み方を教えないと。


「それはありがたいな。ワタシがいた星では、こうやって飲むんだ」


 牛乳ビンの蓋を開けて、左手を腰に当て牛乳を飲む。本当は風呂上がりが最高なのだが、今度聖猿に作ってもらおうかなとシンは思った。そんなシンの姿を見た眷属たちは、ポカンと口を開けている。


「なんで腰に手を当てて飲むのよ?」

「なんとなくそうなるんだ。本当は風呂上がりに飲みたい飲み物なんだよ」

「お風呂?なんで?」

「風呂上がりだと体が熱いだろ?冷たい牛乳を飲むとスッキリするんだ」

「へぇー」


 エウポリアとネロはよく分からない顔をした。しかしお風呂には興味があるらしい。するとシンバンとガルムは声を上げて笑い出した。


「キュキュ、カミサマ、シロイ!」

「ぐふぐふっ」


 シンバンはシンの顔を指差して言う。ガルムは何かツボに入ったらしく、仰向けになって両手両足をバタバタしている。


「んん?口についてたか…」

「神さま、おじいちゃんみたい」

「毎回やってみてよ。面白い」


 エウポリアとネロも笑い出した。シンは袖で口元を拭う。


「そういえば、このベッド、聖猿様が作ってくれたのかな?」

「そうだよ、地べたに寝かすのも背中が痛くなるからって。一旦ソファーに寝かしてる間に作ったんだよ」

「え、でも聖猿様も怪我してたじゃないか」

「大丈夫。聖猿様が指示を出して、秘書さんが作ってたから」


 そうだった。第7秘書はドワーフだったなとシンは思い出した。


「ついでに私たちのベッドも作ってくれたよ。こーんなおっきいの。みんなで寝れるんだ!」


 エウポリアが腕を大きく降って大きさを表した。


「いいなぁ、それ。ワタシもお邪魔しようか」

「いいけどエウポリアとガルムの寝相を避けれるなら、寝てもいいよ」

「ありゃ、二人は寝相が悪いのか」

「えー!?そうなの?…そういえば、寝る前とは逆の位置に寝てたり、ベッドから落ちてたりしてた」

「ががう?」

「ガルムはまだ赤ちゃんだからしょうがないけど、エウポリアは直せるかな?」

「うーん…頑張ってみる」


 と、みんなで話しているところへ、クルクルがやってきた。


『あ!主人どの!お目覚めですか!私はもう心配で心配で!』


 良かった、いつもの圧があるクルクルだ。


「みんな神さまが目が覚めたら寄ってきたのに、クルクルは何をしてたの?」


 ネロがズバッと言う。クルクルは左右に体を揺らし


『主人どのが寝ている間、星の管理をしてたんですー。忘れてませんよ、私の仕事』

「あぁ、それはありがとう」

『順調ですのでご安心を。あ、それでそろそろ聖竜様が訪問するとの連絡が…」


 クルクルが話しているとき、扉が現れ、そこから聖竜と第5秘書が入ってきた。聖竜は人より少し大きなサイズになっている。


『ふむ、シンよ。起きたか』

「聖竜様。今日はどのような用事で?」

『まずはこの度の騒動。シンにも迷惑をかけたな。すまなかった』

「ワタシが皆を守りたかったからで、最後はシンバンの反撃と破壊神さまに任せただけです」

「キュッ。ガンバタ、シンバン」


 シンのそばにいたシンバンは聖竜に向かって胸を張る。


『そうだな。シンバンは頑張った。…喋れるようになったのか』


 キュッとシンバンは頷く。


『この間のそなたの能力の開花で、少しずつ成長が早くなったのかもしれないな。良いことだ』


 聖竜はうんうんと頷き、シンバンの頭を撫でた。


「あの事件の男はどうなりましたか…破壊神さまの聖域に行かれたでしょう?」

『あぁ、あのあとにな。まずあの男はアソル・オンという名前でな。ネロが言ってた通り、最初の人生からずっとルーダにつきまとっていたそうだ』


 自分の人生をそう簡単には吐きそうもないので、破壊神のお付きの爺や特製、自白粥を食べさせたら、自分からどんどん話しだしたそうだ。爺やの自白粥は、食べれば食べるほど自白が止まらなくなる。


『ルーダは知らないと言っていたが、それもそのはず。あいつが一方的に思っていただけで、こう…映像が映る四角い箱や、雑誌?とかで見るだけだったとか』

「それがなんでストーカーになったんですか?」


 ネロが凄く嫌そうな顔で、聖竜に問いかける。


『一度だけ彼女に会ったそうだ。あいつが道端で財布を落として、それを通りかかった彼女が拾ってくれたらしい』

「それだけ!?」

『それだけだ』

「それは動機としては弱すぎでは?」

『そうなんだが、最初の人生ではその出会いしか無い。しかしあいつは非常に粘着質で執念深い。何回か転生したのち、彼女にまた会いしつこくつきまとう。会えなければその鬱憤を世界に撒き散らす、の繰り返しだな』

「どうしようもないですね」


 そしてとうとう破壊神に見つかり、釘を刺されたが、また罪を犯しこの度の事件だ。


「それでそいつはどうなったんですか?」

『破壊神が最終的に滅した』

「また転生するんですか?」

『いや、ここであいつはすでにヒビが入っていたであろう?体に。あの時点で魂にもヒビが入り、修復不可能になった。破壊神が粉々にしたから転生は二度とできないのだ』


 破壊神はアソル・オンの体を地面から引っこ抜いた時、体の表面にヒビを入れた。今までの諸々の悪事に破壊神が怒ったのだ。まだ事情聴取が出来ていなかったため、ひとまず破壊神の聖域で全て自白させた後、創造神や聖竜の許可を得て、アソル・オンの魂ごと粉々にした。


「ワタシがもっと強ければ、みんなを怪我させなくて済んだのに」

『しょうがないな。そなたはまだ神になって1年も経ってない。それなのにこんな面倒ごとに巻き込まれ、大怪我で済んだのが幸いだ。他の神なら対抗できなかったであろうよ』


 聖竜はシンの頭をポンと撫でた。

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