第43話 ゴスロリと恐怖
破壊神と呼ばれた少女は、ルーダを見つけ
「あら?ルーダちゃんじゃない!」
とびっくりした様子だ。
「ルーダちゃんがいなくなって、私寂しかったのよ。いつ生き返ったの?」
「いえ、ちゃんと死んでるわよ」
「そうなの?まぁ、いいわ。またお茶しましょうよ、いつが良い?」
そう言いながらも、破壊神の手は男の肩を掴んで離さない。男も全く身動きが取れない。
『やれやれ。やっと間に合うたわ』
「間に合ってないじゃろうが!見ろ!皆、満
身創痍じゃぞ!」
『いやだ!ボロボロじゃないの。わたしの特製ミックスジュースの出番ね!』
聖竜の背中の上で、創造神や聖牛がわちゃわちゃ言っている。ひと足先に、聖竜から降りてきた第5秘書が
「破壊神さまがバカンスから戻られまして、あの男の話を聞くなり、飛び出していかれて。…凄く機嫌良さそうですが?」
第5秘書は破壊神を見て、不思議に思った。
『そう見えるだろ?あれ、見てみろよ、あの男の肩。あいつの爪が喰い込んでるぜ。相当腹立ってるな』
ルーダと一緒で長年破壊神の友人でもある聖猿は、破壊神の性格を分かっていた。楽しそうに話しているが、実際は今にもその男を滅したいのを我慢しているのだ。
「破壊神よ。お茶会の話は後にして、この男をどうするか…何で顔が溶けておるんじゃ?」
「あ…それは、シンバンが…」
聖牛から特製ミックスジュースを無理矢理飲まされたシンが、創造神に説明する。
『シンバン?そなた、そんな力が?』
と、聖竜がシンバンに手を伸ばす。だが、シンバンはイヤイヤと頭を振り、エウポリアの後ろに隠れる。
『我がそんなに嫌か…』
「さっきみたいな力がもし出てしまったら怖いって」
エウポリアがシンバンの代わりに応える。
「なら、私にドラゴンちゃんのお顔を見せてちょうだい♡」
破壊神がシンバンに声をかける。破壊神に捕まっていた男は、いつの間にか地面にめり込んでいて動けないみたいだ。確か地面は柔らかくして貫けないはずだが…
シンバンはブンブンと頭を振る。
「やだ、心配してくれるの?大丈夫よー。なんとなく心当たりあるから」
破壊神はシンバンにおいでおいでと手招きする。シンバンはシンを見、シンはルーダに確認する。
「大丈夫でしょうか?」
「破壊神のこと?大丈夫よ。あの子、可愛い子には何もしないわ。仲間思いの子にもね」
ルーダはせっせと聖猿の手当てをしながら、任せておきなさいと話す。シンはシンバンに頷くと、シンバンは恐る恐るエウポリアの後ろから出て、とことこと破壊神の元に歩く。
「ぎゅー!良い子ね。じゃあ、今からドラゴンちゃんの殻を取るけど、みんなにはお顔を見せないこと。いいわね」
「…キュー」
「みんなも、ちょっと離れて。じゃないと巻き込まれるわよ…」
ひやっと大気が冷たくなり、その場にいた全員が後退りした。埋もれた男は顔を精一杯背けて、目を瞑っている。顔がブルブル震えている。
「じゃあ、ドラゴンちゃん、取るわね」
「キュッ」
シンバンの殻を破壊神はゆっくり取る。後ろから見ているシンは、シンバンの頭に小さな角が1本ずつ左右に生えてるのを確認した。
『ふむふむ。角はまだ小さいが、これから大きく立派になるぞ』
聖竜がシンバンが成長してることに安堵した。なかなか取れない卵の殻で角の成長が阻害されてるかもと思っていた。
「キュー!」
「良かったわね。で、目を開けてちょうだい」
「キュ…」
「大丈夫だから」
破壊神が言ったその瞬間、破壊神は少女から老婆に変わり、また少女に戻った。その顔には汗がびっしょり浮かんでいた。
「破壊神!?」
創造神が近寄ろうとしたが、破壊神が手を出して遮った。シンバンが破壊神の顔に手を当てる。
「うわー。びっくりしたわ。あなた、可愛い顔して、こんな力を持ってたのね」
とギュッとシンバンを抱きしめる。そして殻を被せると、シンの元へ返した。
「破壊神…その…顔が老じ…」
「それ以上言うと滅っするわよ♡」
破壊神は創造神の言葉を遮り、引き攣った笑顔を向ける。創造神はビクッとした。
「破壊神さま、シンバンはどういう能力だったんですか?」
シンが破壊神に説明を求める。破壊神はうーん?と顎に指を当てて考えながら
「多分、ドラゴンちゃんの能力は、その者の1番恐怖するものを見せる能力ね。精神的な作用が強いわ」
『それはあれか?あいつの場合、顔が溶けるくらいの衝撃だったのか?』
聖猿がルーダに支えられて、座り込む。
「あのバカは、自分の顔、元の顔が失われるのが怖かったのよ。ルーダちゃんに会った時、思い出してもらえるように。結果はそんなの意味無かったわね」
『お前の場合は?』
「私の場合は見られちゃったけど、老いよ。不死だけど老いには勝てないわ。スキンケアって大変なのよ」
スキンケアってレベルじゃない気がする、と誰もが思った。
「ちょっと予想外のことが起きたが、破壊神よ。その男の処分について話し合おうぞ。今、その男を抑えられるのはおぬししかおらんからな」
「いいけど、私の家に来る?ここはあの子の聖域だし、下手に壊したらルーダちゃんに怒られるわ。私もまだ怒りが治まってないのよ」
破壊神は地面から生えている男の首根っこを掴み、ズルズルッと地面から引き抜いた。男は苦悶の表情を浮かべている。
「私、言ったわよね。今度やらかしたらタダじゃおかないって。ルーダちゃんを私から奪って星まで道連れにして、聖猿ちゃんに酷いことして。あの子たちにも怪我を負わせて。私から逃げたことも忘れてはいないわよ!♡」
バキンバキン!と男の体の表面にひびが入る。創造神は慌てて止めに入る。
「じゃから早くおぬしの聖域へ向かうのじゃ。聖竜!頼む!」
『我はそなたのタクシーじゃないのだぞ。…しょうがない。第5秘書も行くぞ』
「記録に残さないといけませんね。お任せください」
創造神や破壊神、第5秘書は聖竜の背中に飛び乗る。
「ルーダちゃん、お茶会の日時はまたお知らせするわ。お土産もあるし、聖猿ちゃんも一緒にね♡」
「私は仲間外れですか…」
「第7秘書もついでに来ていいわよ」
「第5秘書だけじゃ記録が追いつかないから、ハザマも呼ぶかの…聖牛はどうする?」
「わたしは残ってみんなを治療するわ」
『もうよいか?その男が粉々になりそうだぞ』
「あら、加減ができなくて。聖竜ちゃん、お願い」
聖竜はちらっとシンたちを見て飛び立ち、第5秘書が開けた巨大な扉から猛スピードで飛んでいった。
それを見送ったシンは、はぁーとため息をつき、がっくりとうなだれた。気を張っていたのだが緊張が一気に解けて、深い眠りに落ちた。眷属たちがシンを囲んでわちゃわちゃするのが、意識の向こうでうっすら感じられた。
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