第42話 シンバンの力
「えっと、前任者の…」
「ルーダよ。あなた、もっと怒んないとダメよ」
と、シンは手厳しくルーダに言われる。結界から飛び出してきたネロの祖母とルーダの眷属がルーダを取り囲む。第7秘書はもう号泣で聖猿の服をビショビショにし、聖猿に叩かれる。
「ルーダさま!」
「ルーダさま!会いたかったです!」
「我ら、再び会えると信じておりました」
「みんな、ごめんね。生身じゃないけど」
ルーダは自分の眷属を見て笑う。聖猿はふらふらになりながら
『おい、お前ら。油断すんなよ。まだあいつはそこにいるんだ』
聖猿は顎で男を指し示す。聖狼が警戒をする。男は少し身動きし、現れたルーダに顔を向ける。
「お前…ルーシェじゃないのか…」
『ルーシェ?誰だそれ』
「じゃあ、ルミエル?」
「知らないわね、あんたなんか」
男はそれを聞いて、顔を醜く歪ませ
「俺があれだけお前に貢いでも、お前は俺を覚えてないというのか!」
「私はあんたと違って何も覚えていないし、私の夫はこの人だけよ」
ルーダは聖猿のそばに寄り抱き寄せる。
「俺が!俺が何度転生したと思っているんだ!何百回転生しても会えたのはたったの5回だ!その度にお前は、誰かのそばにいた。俺のものにしたくとも、お前はそいつから離れない。そいつは…」
と、じっくりと男は聖猿を見る。そしてワナワナと震えると
「またお前か!ルーシェやルミエルの夫はずっと同じ魂だ!必ずお前が居る。なぜ神の世界にもお前がいる!?ふざけるな!」
男は怒りで目から血を流している。それを聞いたネロは
「えっ?怖くない?」
「何がだ?」
とシンはネロに聞く。
「あいつ、ルーダさまのストーカーでしょ。もしかして転生の目的ってそれ?
ひえっ!となったネロに、男は縄の隙間から手を伸ばし、ネロを掴もうとした。
ドン!とネロが突き飛ばされて、代わりにシンバンが捕まった。
「シンバン!」
シンとネロが叫んだ。檻に阻まれ、シンバンはガシャン!と檻にぶつかる。
「ギュー!」
シンバンは悲鳴を上げる。
「お前ら、邪魔しやがって。どれだけ俺が世界を滅ぼそうとしても必ず邪魔するやつがいる。前回もそうだ。あの爆発で俺の魂にも傷が付き、瀕死だった。やっと回復して神の世界に来たのに。こんな殻を被ったふざけたヤツにも邪魔され…!」
そう男は言い、反対側の腕も出してシンバンの体を締め上げる。
「ギュッ!ギュー!」
シンバンの体から水蒸気が上がる。
「やめろー!!」
シンがシンバンの方に駆け寄る。その横を小さい何かが走り、男の腕に飛びつく。飛びついたガルムが腕に噛み付くが、男が腕を振り、地面に叩きつけられる。
「ぎゃう!」
「ガルム!」
シンは加速し、右手に魔力を集めて渾身の力で男の腕を殴りつける。バキバキバキバキ!と男の腕がへし折られる。その時に、シンバンが落下しシンはしっかり抱きとめた。しかし、怒りでルーダの縄と檻を引きちぎり壊した男は構わず、ガルムとシンバンを抱えたシンへ、蹴りを喰らわす。
「うっ!」
「ギュー!」
「がうがう!」
2人を守り、シンは地面に転げ、男のなすがままに蹴られ踏まれていく。さっきの一撃で、自分の魔力は枯渇している。返す技もない。
「キュッ!キュッー!!」
「がうー!」
「大丈夫だ。お前たちを死なせはしない…」
シンバンとガルムは、シンの腹の下で泣いている。シンが血を吐いても、シンは2人から離れようとはしない。離れたら次の狙いはこの子たちだ。
「はー、しぶといな」
シンの髪を掴み、首に手刀を当てようとした男に、聖虎や聖狼、ルーダの狼が突進しようとするが、男は結界を張って阻まれ、聖虎達は手を出せない。
「俺は他人の魔法をコピーできるからな。結界なんて俺に見せるからだ」
改めて男がシンにトドメを刺そうとする。シンバンがシンの腹の下から出て、シンに覆い被さる。
「ほう。やはりお前からか?」
「シンバン?やめてくれ!」
男がシンバンに狙いを定めたとき、シンバンが被っていた殻がポロッと外れる。一瞬、そのシンバンの顔を見た男は、動きが止まり、シンの髪から手を離すと、自分の目を覆いながらブルブル震え出す。
「いぎゃー!!うわっ!ぎゃぁぁぁぁ!!」
のたうち回りながら男は悲鳴を上げる。指の間から、ドロドロしたものが流れ落ちる。
『どうしたんだ?』
と、結界が解けてシンとガルムを助けた聖狼と聖虎は、シンバンを見た。シンバンは、自分の顔を手で隠し、もう片方の手で殻を探していた。
「これか。聖竜殿の子よ」
ルーダの狼が殻を口に咥えて、シンバンに見せる。急いでシンバンは殻を被り、
「キュッ!」
自分を守ったシンのところへフラフラ歩き出した。
「待て待て。怪我をしているのだ。我が運ぶ」
ルーダの狼はシンバンの首根っこを甘く噛み、シンとシンに絡みつくエウポリア、ネロ、ガルムのところへ連れていく。
その間も男は悲鳴をあげ続けている。
「シンバン!シンバン!大丈夫か!」
「キュッ!キュッー!」
シンバンも大怪我を負いながらも、同じくシンに絡みつく。眷属たちは離れようとしない。
『主人どのー!おいたわしや。シンバンもガルムも!私に手があれば、あいつをけちょんけちょんに!』
クルクルがシンの顔近くに寄って号泣している。
「相変わらず、圧が…あれ?クルクル?ルーダさまは…」
「私ならここよ」
ルーダは聖猿のハンマーに体をあずけている。
「無機質なものじゃないと、憑けないのよ」
「クルクルは一応生きてますが…」
「あら、そういえばそうね。なぜかしら」
『ルーダさまなら、私にいつでも取り憑いても』
「遠慮しとくわ。夫のそばに居たいし」
『残念です…』
その間もシンに眷属たちは引っ付いて退こうとはしない。
「神さまー!うわーん!」
「キュッ!」
「死んじゃうかと思った。うぅっ…」
「がうがう!」
『あなたたち、離れないと治療ができないですわよ。シンバンもガルムも怪我してるではないですか』
聖蛇が宥めるも、離れようとはしない。しかし、少し目を離した隙に、あの男はズルズルと這いずり、シンたちの近くに入り込もうとしていた。
『ぎゃー!主人どのたちは、私が守ります!』
クルクルが自身を振り回し、シンたちの前に立ち塞がる。男は顔が溶けて骨が見えている。聖獣たちも守りに入る。結界の外だが男は入るのを諦めない。恐ろしい顔でこちらを睨みつけている。シンは身動きが取れずどうすることもできない。
すると、
「はぁーい♡おまたせ!」
その緊張した場に似合わない幼い声が響く。声はするが姿が見えず。シンたちがキョロキョロしていると、男がふわりと浮かび、男の肩を後ろからガシッと掴む少女がいた。
シンは何故ここに少女がいるのだろうと思った。しかも前世で見たゴスロリの衣装。
少女はシンを見るなり
「きゃー。大変だったね。よく頑張ったわー♡」
と労いの言葉をかける。聖猿は呆れた声で少女を見ると
『遅えじゃないかよ、破壊神』
そう呟き、息を吐いた。破壊神と呼ばれた少女は、ふふふと微笑んだ。
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