過去と出会う
挨拶を終えて、静かに席を立つ少女に習って、同様に私も席を立つ。
少女は戸を閉めるまで口を開かなかった。
「おばあちゃんは、5年前に亡くなったんだ。」
話をしながら自室に向かっていく。私はそんな少女を追って聞く。
「お医者さんが言うには、寿命だって。天寿を全うしたから、褒めてあげてって。」
少しだけ悔しそうに語る声
「正直、納得できなかった。亡くなる1週間前までは、すっごい元気だったんだよ。」
「よくここに遊びに来る私に、いつでも付き合ってくれていて...」
少女の自室の前に、水が滴る。
「知り合いに頼んで、私の部屋まで作ってくれて...」
涙を振り切って、思い出したように問いただしてきた。
「そうだ!思い出屋さん。おばあちゃんがなにか言っていなかった!?」
期待を向けられていることは重々承知するが、無理な相談だ。
「私は先代から【これ】を受け取っただけ。だから、あなたの祖母について、私が知っていることは、1枚を除いて無い。」
1枚だけはあるのだ。
「1枚...おばあちゃんが、何かメモでも送っていたの?」
あるという事実は嬉しいのだろうけれど、それが何であるか分からないから、手放しに喜べないのだろう。
背負っていたリュックの中からファイルを引っ張り出し、その中からここに来た目的の写真を探す。
急に地面でファイルを開いた私に驚いて、扉を開いて私を手招きしている少女もいた。
暖房の効き始めた少女の部屋で少し探していると、やっと見つけた。
「あった。」
それは、なんてことの無い家族写真。目の前の少女に似ている人がいるけれど、周囲の風景からしてこの少女はおばあちゃんだ。
「これ、おばあちゃんの子供の時の家族写真...だよね。」
「多分そうだね。」
互いに、しばらく言葉が出なかった。
何を考えるべきかも分からないし、なんと思うべきなのかも分からない。
悲しいや寂しいなんて、この写真に失礼である。
しばらくして、少女が口を開いた。
「この写真、貰ってもいいかな。」
目的は聞かなくても分かる。
「いいよ。もとより、持ち主に返すなりするつもりで旅してるから。」
返す人がいなかったらどうするか、考えとかないとな。
「ありがとう。ねえ、良かったら連絡先交換しない?私、またあなたと話してみたいの。」
嬉しいお誘いであるが、私はスマホを持っていないのである。
「ごめんね、スマホ持ってなくって...。だから、次会うことがあったら、交換しよう。」
嫌われてるのかな?なんて疑われただろうか?
「そっか、じゃあ仕方ないね。来る機会ができるように、写真撮ろ。それで!」
半ば強引にカメラを奪われなすすべもなくカメラを見るだけの私と、元気な顔をした少女が写真に収められた。
不思議なトートバック 埴輪モナカ @macaron0925
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