第21話 英霊の魔法士(エリーゼ視点)


 エリーゼ視点




 ダイ先輩は、天才なのは認めます。

 天才で頭もいい。

 時の魔法式の解読も順調に進んでいるみたいですし、あの金のキューブの謎が解明されるのも時間の問題。


 ですけど変態なんですよね。

 其れがたまに傷なのです。


 この前も私のスカートの中を覗こうとしてましたし。

 どうすればいいんですかね。

 お仕置きとかが必要なんですかね。


 いやいや、ダイ先輩にとってはお仕置きもご褒美かもしれません。

 やめておきましょう。


 それと、これですよこれ。

 この盗撮機と盗聴器。


 凛が気づいたからいいものの。

 メモ帳の魔法式から作り上げて、隠し持っていたんです。

 幸運にも使用形跡はありませんでしたので、取り上げとメモ帳のページの破棄だけでお咎めは無しにしましたが——。

 油断はできませんね。


 ですが、この盗聴器と盗撮機——使いようによっては便利かもしれません。

 これで、ダブル国務長官を陥れられたり……。


 いけませんエリーゼ。

 そんな品性を損なうようなことをしては。


 ですが、このようなことができれば、苦労もせず、ダブル国務長官をのさばらせることもなかったのかもしれません。


 まあいいでしょう。

 私が厳重に保管しておきます。


 さて、お風呂にしましょうか。

 今日のシャンプーはお気に入りのハーブの香りにしましょうか。




 やっぱりお風呂は極楽ですね。


 カケル先輩は元気に修行してますかね。

 今頃は龍族との修行ですかね。

 あの時は大変でした。


 人族への嫌悪感からかなり当てつけなような修行で、滅多打ちにされましたからね。

 まあ、最終的に滅多打ちにしましたが——、そしたらお転婆娘なんて言いふらし出してあのリューカリア。

 覚えておきなさい。

 今度あったらけちょんけちょんにするんだから。


 だけど、カケル先輩なら上手くやりそうだな。

 どうしても緊張しちゃうんですよね、カケル先輩と話す時——もっと部下のことは知らないといけないのに。


 さてと、そろそろ出ましょうか。


 髪が長いと乾かすの大変なのよね、切ってみましょうか。

 さっさと部屋に戻るとしましょう。

 ってあれ? 何か鳴っている。


 これダイ先輩の盗聴器——、もしかして、ダイ先輩が盗聴を?

 これはさすがに許せませんよ。


「……求む」


 求む?

 誰からの通信でしょうか。


「……龍族の町……敵襲……救援……求む」


 途切れ途切れの声。

 これは、カケル先輩の声——それに緊急事態のメッセージ。


「凛! 凛はいる?」

「はい、どうしましたか?」

「今、この盗聴器から翔先輩の声が」

「この盗聴器——ダイ君のものですね。これからカケル君の声が聞こえたのですか?」

「そうよ。それと龍族の町が敵に襲われているから救援に来てほしいと言っていたわ」

「それは本当ですか?」

「おそらく」

「困りましたね」


 そう、困った状態なのです。

 龍族の町は私やお師匠など一部の人しか知らない極秘の地。

 そして、誰にも明かしてはいけないのです。。

 だから、他人にこの地を伝えるわけにはいかないし、民主連合国の兵士を送るわけにはいかないのです。


「ならば、私が行きます」

「姫様。それは」

「いえ、行きます。お師匠にも連絡がつかない今、対処できるのは私たちだけです」

「しかし危険すぎます」

「これは王族としての使命です。私が目指す国は、皆が平和な国。龍族も例外ではありません。凛。申し訳ないとは思っていますが、エレンバルグの力を今こそ貸してください」

「——分かりました。姫様の仰せのままに」

「ありがとう、凛。1分で支度します。しばし待ってください」


 服を着てローブを羽織って、杖を持ってと。


「さあ、凛、手を掴んで、久々の浮遊魔法です。酔いに注意してください」

「はい」



 大森林の龍族の町までは飛ばして40分です。

 お願いですから、カケル先輩耐えてください。





 龍族の村に着くと、そこはすでに戦闘は終わっていました。

 龍族の圧倒的な勝利。

 久々に会ったリューカリアと感動の再会とは行きませんでした。

 カケル先輩は、リーリャという謎の女と龍族の子ども達を探しに行ってから戻ってきていないと。


 嫌な予感がします。



 凛を引き連れてさらに森の奥に行くと、緑龍が子ども達を引き連れて歩いていました。

 事情を聞くと——翔先輩が子ども達を助け出したとのこと。

 そして、カケル先輩は再び神殿の中に消えていったと。


「姫様急ぎましょう。嫌な予感がします」


 凛も私と同様の悪寒を感じているみたいです。


 浮遊魔法で神殿まで近づくと、神殿の奥からおどろおどろしく並々ならない殺気を感じました。

 カケル先輩はここにいる。

 直感は確信に変わり、凛と一緒に神殿内部に突入すると——血だらけの少女を背に守りながら剣で戦うカケル先輩。


 しかし、圧倒されているのは一目瞭然で、次の瞬間、体勢を崩した翔先輩を奇妙な女が刺し殺そうと———。


 しかし、その一撃は風よりも早く走る凛によって寸前で止められ、凛は慣性の力も上乗せした蹴りでその女を吹き飛ばしました。


 さて、私も援護をしなければ。

 あの女を逃したらいけない。

 直感がそう訴えかけてきます。


 知らない人の前で手の内を明かすのは気が引けますが、こういった状況の場合、全力でもって相手をねじ伏せるのが常。

 カケル先輩にもお伝えしていなかった私の最大の魔法を披露することにしましょう。


 お師匠が付けてくださった私の二つ名は、英霊の魔法士。

 唯一にして伝説の魔法の担い手。


「英霊召喚!」


 私は、過去、国を守るために奮闘したアーサー王とジャンヌダルクを英霊として召喚できるのです。





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だから僕は悪虐王になった〜最弱魔法劣等生の叛逆〜 根津白山 @OSBP

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