第12話:同窓会2

 突然のトラブルはさておき―――。


「なぁにがトラブルだァー!? ToLoveるしろよオラァ!!」


 トラブルは! さておき!

 歓迎会ということでオタクくんが宴会の如く料理を用意してくれたので、ありがたく食わせてもらうことになった。

 青空の下、大机の上に並べれた料理の数々は見覚えのあるものばかりであった。


「オタクくん! これは、海老天!……っぽいもの?」

「パン粉とタマゴはどうにかなったでござるが、この世界は海がないせいでエビが獲れず、適当なものを揚げるしかなったでござる……」


 海がない?

 つまり……マグロも、サンマも、ウニもないのか!?


「そんでこれは……オニギリ!……っぽいもの……」

「米のようなものは見つけたでござるが、パラパラになるので焼いて固めるしかできなかったでござる……」


 なんだろうこれ……パンと米の間って感じがする……。


「そしてこれはまさか……ラーメン!?……のような…………ウドン?」

「ウッ、ウゥ……どう頑張っても、形だけしか模倣できなかったでござる……」


 うん……ウドンだ、とてもウドン味がある。


「拙者は……何の役にも立たない、お荷物でござる……ブヒィッ!!」


 そう言ってオタクくんが男泣き、ほかの皆が一生懸命に慰めてる図は異様な風景である。

 そして隣に座ったぐっさんに尋ねてみた。


「ング、ング……いや、普通に美味いんだけど、何か問題あるの?」

「全くないな。オタクくんの料理スキルのレベルが6あるし、不味いはずがない。おかげてモテモテだ」


 乙女のように泣くオタクくんにいる何人かの女子は、まるでイケメンを前にしたかのように猫をかぶって慰めている。

 前世知ってるから意味ねぇのになぁ……。


「そういえば二つほど気になったんだけど、この世界って海ないの?」

「信じられないけど、ないらしい。世界の淵があって、そこから落ちたら二度と戻ってこれないらしい」


 こわぁ~……落ちたらどうなるのか気になるのもあるが、自分の知ってる物理法則とかが全く通用しないのかぁ。


「んじゃもう一つ。スキルレベル6って言ってたけど、もしかして7とかもあんの?」

「普通は5が限界だが、才能に恵まれればそれ以上にもなれるらしい。料理スキルのレベルが6というのはかなり凄くて、7とかは伝説級らしい」


 つまり、オタクくんは文字通り才能に恵まれてるわけだ。


 そんなこんなで料理に舌鼓を撃ちつつ、預けた赤ん坊の方に目を向ける。


「キャー、かわいいー!」

「見て見て! 指、ギュって握ってくる! 超やばい!」

「ぷにっぷにだよ! あんたの胸より柔らかい!」

「うるせえ! 前世の分も合わせればBサイズだぞ!」


 お前、前世と合わせてもBなのかよ……という思いは口に出さず、先生に預けた兄妹の子供の方を見る。


「ほぉ~ら、先生みたいにピッチピチで美味しいよぉ~? 」

「…………」


 わかってはいたが、まったく食事をとろうとしない。

 あの村からここに来るまでの間も、ほとんど食わず飲まずだった。

 だからこそ先生なら何とかしてくれるかと思ったのだが……。


「美鈴があ~んってしてあげるわよぉ♪ こんなことするの初めてで、恥ずかしいんだけどぉ~……キミの為ならやっちゃう♪」

「……………………」


 案の定というべきか、あの子は一切の反応を示さない。

 無理もない……それだけの惨劇を、目の前で見せられたのだから……。


「…………食えやオラぁ!!」

「待って先生! 実力行使はマズイですよ!」


 先生が無理やりあの子の口の中に食事を突っ込んだので、慌ててクラスメイトと一緒に止めに入った。


「止めんじゃねぇよ、このバカタレ共! こうでもしねぇと食わねぇんだよコイツ!」

「だからって実力行使は犯罪ですよ!」


 この先生、肉体年齢は俺らと同じはずなのに数人がかりで押さえつけても全く意に介さない!?


 それどころか何人か引きはがしてこちらの手を掴み、あろうことか兄妹の娘さんの服の中に突っ込ませた!


「実力行為が犯罪だぁ!? ならテメェの罪も自覚しろやコラァ!」

「あー! いけませんいけません! 先生これはいけません―――」


 "わいせつ罪です"と言おうとして、言葉が止まった。

 服の下には子供特有の柔らかい肉、弾力性のある脂肪……などではなかった。

 薄い肌と、それ故に分かる骨の固さと脆さだった。


「ゴブリンに子育ては難しかったか? よくもまぁここまで育児放棄できたもんだなァ!」


 先生の言いたいことは分かる。

 だけど……!


「だって! この子は両親を目の前でバラバラにされて、村が滅んで、化物に飼われそうになってたんですよ!?」


 そんな子に、これ以上何かを強いることなんて―――。


「だからどうしたドアホウが!」


 そんなこと知ったことかと、先生が平手打ちでぶったたいてきた。


「せ、先生!?」

「嫌われるのが怖くて何もしなかったってか? おかげでこいつはガリガリのボロボロだ!」


 先生からの怒声には真剣さと悲痛さが入り混じっており、そのせいで俺も皆も誰も何も言えなかった。


「元の世界なら点滴でなんとかなったかもしれんが、こっちじゃそんな便利なもんは無え。死なせたくなかったら、嫌われようが犯罪だろうが無理やり食わせろ、バカ野郎……」


 先生は大きなため息を吐き、みんな先生から手を放す。

 前世じゃどうしようもない人だと言われていたが……この人ほど俺たちを知ってる大人はいないと思ってる。

 だから俺たちはこの人を、今でも先生って呼んでいるんだ。

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タナカ、ゴブリンに転生したってよ @gulu

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