第11話:同窓会

≪数日後≫

「着いたぞ、田中。ここがオレ達の集合地点でもある村……村というほどの規模でもないが、ニィビーだ」


 目の前には大きな草原が広がっており、ポツポツとコテージや建築物っぽい何かが建てられている。

 遠くに見える煙は白かったり黄色だったりと、皆ここで色々作ったり実験してたりしているのが分かった。


「はぁ~……ここがぐっさんの土地ねぇ。固定資産税とかないよね?」

「ない。というか、納める場所が実家だしな」

「女子に"身体で払ってもらおうか、ぐへへへ"とかしないの!?」

「誰がするか!」

「俺!」

「お前かよ!? はぁ……好きにしてくれ……」

「えっ、今ぐっさんが"オレの身体を好きにしてくれ"ってメス顔で言った……? トゥンク」

「言ってない! というか口でトゥンクとか言うな!」


 十五年経ってもぐっさんのツッコミはキレキレだなぁ。

 おかげで話しやすいのなんの。

 話しやすいといえば、もう一人いるはずなのだが……。


「ねぇねぇ、オタクくんとかは何処にいるの?」

「太田くんなら、すぐ――」


「田中殿オオオオォォ!」

「ぐっふぉあぁ!?」


 突如、筋肉モリモリ胸毛モジャモジャマッチョマンがタックルしてきて、抱きかかえからのベアーハグをかましてきた。


「イダダダダ! 骨が! 背骨と肋骨が合体しちゃう!」

「お久しぶりでござるううううぅぅ!! 生きていてよかったでござるよおおおおぉぉ!!」


 その筋肉ダルマのハスキーな声は知らないが、特徴的な口調は知っていた。


「も……もしかして、オタクくん!?」


 メガネもねえ! 面影もねえ!

 体重あるのに脂肪がねえ!


「うそだ……うそだあああぁぁぁ! 俺たちのオタクくんが……こんなスーパーマッスル男になるだなんて!」

「太田、そろそろ離してやってくれ。あと田中、お前それ普通に失礼だからな」

「そうでござった。感極まって、ついハグしてしまったでござる……」


 オタクくんが優しく下ろしてくれたが、こちらは全く慣れてない顔なのですっごい戸惑ってしまう。

 もしかして他のクラスメイトも顔や身体が違うのだろうか。


「ねぇねぇ……やっぱりあれ……」

「オタク×委員長の間に田中が入ってきたわね……これは熱いわよ」


 遠くでヒソヒソと話している女子グループを見つける。

 あいつらは異世界でも変わってないみたいだ。


「そこ! 腐川と腐野の腐女子コンビ! 勝手に掛け算を増やすな!」


 本名は布川と草野なのだが、有機物無機物問わずに雄化させて合体させるので"腐"の称号を授けられた奴らだ。

 どうやら異世界でも相変わらずらしい。


「あら、失礼しちゃう。腐女子コンビですって」

「今はトリオよ、そしてこれからもっと広がっていく予定」

「感染拡大させんなバカ!!!!!」


 ハーッ……ハーッ……こいつらは本当にもう……。

 大声でそんなやり取りをしていたせいか、段々と人が集まってきた。

 面影がある奴もいれば、顔は違うが髪型のおかげで大体わかる奴もいる。


 ただ、全員集合というには少なすぎた。


「ねぇオタクくん、これで全員なの?」

「いや、律華殿は英雄の娘様らしいので、そちらも皆を保護しておりますぞ」

「へぇ~…………え? どうやって探して保護してんの? 顔とか違うし、一人一人聞くとか途方もないと思うんだけど」

「おぉ、そうでござった! 田中殿にはまだこれを渡していなかったでござるな。では、どうぞ!」


 そう言ってオタク君が顔を近づけてきたので、咄嗟に回避する。


「……田中殿、痛くありませぬから! 神妙に、いざ!」

「いやいやいや、痛いとか痛くないじゃなくてもっと大切なものが……待って待って近づかないで顔掴まないで顔近づけないでイヤアアアアァ!!!!」


 今日、俺は自分の『性欲に比例し、戦闘力が上昇』するチートの弱点を見つけた。

 ムキムキの男にキス顔を近づけられただけで……俺は矮小なゴブリンにしかなれない……!


 全てを諦め、この腕の中で死ぬのかと覚悟した。

 しかし、唇は重なり合うことなく、頭同士でゴツンと当たっただけであった。


「よし、これでオーケーでござる。ちゃんと見えてるでござるか?」

「へぇ? 見えてるって何が………うわなにこれスゲェ!!」


 山口、太田、布川、草野……目を凝らすと、皆の頭の上に文字が浮かび上がっていた。

 そして、遠くにもかすかに文字のようなものが見えるのに気づいた


「これが拙僧のチート、前世の皆の頭の上に名前が見える『クラス名簿』でござる!」

「名前が見える……もしかして、皆や俺を探したのも!?」

「その通り! 遠いと文字は小さくなるでござるが、このチートがあれば誰が何処にいるかが分かるでござる! 田中殿は遠すぎた故に、正確な場所が分かりにくく、迎えに行くまで時間がかかってしまいましたが……」

「いやいや、十分に凄いよこれ。というか、自分のチートを他の人に与えられるって……」


 チートというのは、そいつが持つ強みだ。

 それを他の人まで使えるようになったら、自分という優位性が揺らぐことになる。

 だというのに、オタクくんは何の惜しみもなく、俺にもチートを分け与えてくれた。

 なかなかできるようなことじゃない。


「やはり、また2-Bの皆で集まりたいでござるからな。また一緒になる為なら、いくらでも使ってもらっていいでござるよ!」

「うぉっ、まぶし! オタクくんが厳つい顔のマッスルになったのに良い人すぎてまぶしい!」


 遠巻きに男子と女子のグループが「分かる」みたいに頷いてる。

 オタクくん、前世から皆に優しかったからなぁ……俺も分かるってばよ。


「やっほー! 田中くんも来たんだね、元気だった~?」


 オタクくんの優しさに感動していたら、知らない女子が話しかけてきた。

 名前は……美鈴?

 知らない人だ。


 ……待て、どういうことだ?

 このオタクくんの『クラス名簿』はクラスの皆の名前が分かるチートだ。


 俺は美鈴という奴を知らない……知らない奴がどうしてここにいる!?


 咄嗟に身構えるが、美鈴という名前の女子はクスクスとからかうように笑っている。


「んも~、ヒドいなぁ田中くん。美鈴、傷ついちゃうぞ☆」


 なんだろう……この感じ、どこかで覚えがある……。

 転校生? 転入生?

 いや、それは今まで一度ないイベントだった。


 だけど、この女子はここにいる……無関係の人ならここにいるはずがない。

 というか、皆がもの凄い気まずそうな顔をこちらに向けているんだけど、何が……?


「ねぇねぇ、やっぱりゴブリンってスゴいのかなァ~? 美鈴、田中くんのバッキバキになったの、見てみたいなぁ♪」

「あ………」


 思い出した!

 思い出してしまった!!

 この女子は……いや、この人は――。


「先生!? どうしてここに!!」

「んも~、先生だなんて他人行儀だなぁ。もっと気軽に美鈴って呼んで?」

「先生、会えて嬉しいです! 大人がいるだなんて、心強いなぁ!」

「ねぇねぇ? 美鈴、皆と一緒に転生したんだょ? だから皆と同い年なの、分かる?」

「何言ってるんですか! 俺たちにとって、先生はずっと先生ですよ!」

「だ~か~ら~! 美鈴はもう大人じゃなくて子供だから――」

「下品な下ネタ言ったり、教え子を狙ったり、それで直で校長室で怒られたり、だから彼氏がいない一人寂しい独身アラサー教師のままみたいで嬉しいです!」

「ブチ殺されてぇかこのクソガキャ!!!!」


 この罵声で確信した! やっぱり先生だ!

 救われない、救いようもない、どうしようもない……もう手遅れだと誰もが見放した、俺たちの先生だ!!

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