ピニャータ・オオゲツ

爽月柳史

ピニャータ・オオゲツ

 地下の座敷には神がいる。神は若い男の形をしていて村の豊穣を司る。

 地主がいる。地主の家の地下室に神がいる。

 神は地主の家系に生まれる。

 地主の役目は神から豊穣を受け取ることだ。

 棒を手に地下へ下る。たどり着いた座敷牢に男がいる。

 牢に入り男を打ち据える。男の体は弾けて、中から米や肉野菜が転がり出る。それらを集めて村の倉庫へと納める。冬は寒く、夏は乾く、食物を得るには全く不向きなこの村では、男から零れた食料は大事な生命線だ。

 「本日も貴重な恵み、誠にありがたく存じ上げます」

 「良い。しかしそろそろ腹も減ってきた」

 「今しばらく。まもなく小池の家で食事がでます」

 数日後、小池の家で葬式が上がった。死んだのは最年長の老婆だ。葬儀の後、遺体は地主の家に運ばれ、地下へと送られていく。

 「おう、おう、留か、大きくなったなあ」

 目の前に供された遺体を見て、男は懐かしそうに目を目を細め、指を口に含んだ。

 骨と肉を嚙み潰す音が響く。

 男から賜った恵みを男に返す。この村の人間は死ぬと男の食事となるのだ。

 ぐちゃぐちゃと調理もしていない肉を男は嬉しそうに頬張る。

 「そんなに旨いものかね」

 思わず呟いた言葉に咀嚼の音が止む。

 「それはそうさ。身内が不味いわけないだろう、兄弟」

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ピニャータ・オオゲツ 爽月柳史 @ryu_shi_so

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