3.

あれから数年が経った。


優菜も小学生になり友達もたくさん増えて充実した日々を送っていった。時折彼女の話をすることもあったが、僕はあの彼女のために思い出さないように聞き流していった。やがて僕に知人から再婚の話が持ち掛けてその人に会うことにした。


街中にある喫茶店へ訪れてしばらく待っているとドアのチャイムが鳴ったのでそこへ目に向けてみると、僕は思わず、あっと声を漏らしてしまった。


その顔立ちは、あの時助けた彼女に似ていて声も出せずに見惚れていると、その女性はどうしたのかと訊くと何でもないと答えるしかなかった。目鼻立ちのはっきりとした意志の強そうな雰囲気が彼女そのものだった。


お互いに結婚の意思がある事を告げると、徐々にだが心を開いていき僕たちは一緒になる事を決めた。優菜も亡くなった母親の事を考えていたが、僕が幸せにいられるなら受け入れても良いと承諾くれた。


あの時出会った彼女は今どうしているのだろうか。きっと元の温かいあの海へと魚たちとともに泳いでは幸せに暮らしているのだろうと考えると、僕もこれから家族を守らないといけないのだと強く希望を持つようになっていった。


それからしばらくして、防波堤に釣りに出かけた。いつも見ている場所なのに澱んでいた海がいつになく青く澄んで輝いて見えるようになっていた。魚も何匹かは釣れたのだが、彼女の約束を考えて、その日は彼らを返してあげようと海の中へ戻してあげた。

その後その海岸へは釣りをすることがなくなり、漁港の近くにある場所へと替えることにした。


椅子に腰を掛けて時間を潰していくと、糸が張り詰めていたのでリールを回して引き上げていった。見たことのないほどの赤く鮮やかな胴体に七色の背びれが印象的だった。良い獲物が取れたと思い釣り箱の中に入れようとした時だった。


「ねえ。私をあなたのお家に連れて行ってくれない?」


僕はまた、どうやら奇跡と出会ったようにも思えた。


《了》

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ポーチュラカ【仮】 桑鶴七緒 @hyesu

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