2.
彼女が来てから十日目のことだった。
夕食時につけていたテレビに彼女が何かにくぎ付けになっていたので声をかけてみると、そこには南の島の穏やかな海の中が映し出されていた。
「ここにはパパもママもいるのかしら?」
寂しそうに
翌日、ある一人の漁師の家に訪れて話をしてみた。逸話として聞いたことがある話があると言ってきたので訊いてみると、彼女は洞窟の中に住んでいたのかもしれないと言ってきた。
どういうことか更に聞いていくと、僕たち人間が本来あるきれいな海を汚してしまったがためにそこに住めなくなった分、洞窟に流れ込んできたのではないかと話していた。
ここから近い洞窟と言えば思い当たる場所がある。
しかし、海水の温度は彼女が話している場所よりも低いため住めるような所ではないだろうと考えた。それにいつまでも人間と人魚が共存できることには何ともしがたいと言うらしい。優菜にもどう伝えようか悩んでしまった。
「それなら一層のこと、試しに洞窟に連れて行ったらどうだ?」
その漁師はそう言ってきて近いうちに彼女を離した方がいいと言い出してきた。自宅に帰った後優菜にその旨を伝えると、ぐずりながらずっと一緒にいたいと言ってきたが、もしかしたら命が危なくなるかもしれないから海に帰してあげようと言うと、少しは納得してくれたようだった。
優菜を寝かしつけた後、僕は彼女にその話しを持ち掛けてみると、自分も元の場所に帰りたいと言っていた。とりあえず再び漁師のところに連絡をして、ここから数十キロ離れたところにある洞窟へと船を出してもらう事を許可してくれたので、行く事を決めた。
数日後、怪しい雲が空に覆い被るように海を睨みつけていた。僕は優菜も一緒に連れていき、岸壁から小型の船舶が出てから三十分ほどのところにある洞窟の中へやってきた。釣り箱の中に入れていた彼女を手で掬って出してみると、辺りを見回しては不安そうな顔つきで僕たちを見ていた。
「ここしか行く当てがなかったんだ。申し訳ない。君をこの場所に置いていくことした」
「ここの中は少しだけ温かいわ。ちょっと泳いでみるわね」
そういうと彼女は優菜の手から離れて思いきりジャンプをして海の中に飛び込んでいった。しばらく待っていると陸へ上がってこなかったので、気に入った場所でも見つかったのかもしれないと皆で話をし、船舶を出して戻ろうとしたその時だった。青く澄んでいた海の中から彩色に光る何かが突き抜けてきて、洞窟一帯を強い光で照らし出していった。
「凄い!パパ、きれいだね」
「ああ。これってもしかしてあの子が知らせてくれているのかもしれないな」
「何をだい?」
「本当は一緒にいたかったけど、その代わりにこの海をこれ以上汚さないように、守っていって欲しいと伝えたかったのかもしれないなってさ」
「あの子と、またどこかで会えるかな?」
「どうだろうね。その約束を守ってあげれれば会えるかもしれないな」
やがて光は静かに消えていき、洞窟から出て漁港に戻り自宅へと着くと、いつもの変わらない日常が戻ろうとしていた。優菜も彼女の話はしていたものの次第に忘れていこうと考えて、その事には触れないようにしていった。
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