ポーチュラカ【仮】

桑鶴七緒

1.

今日で何日目になっただろうか。


彼女を家に連れてきてから僕の生活は何かの潤いに満ちた思いで溢れている。当初は何かに怯えるように僕たちの事を拒んでいたが、触れ合うたびに心を許していってくれた。


四歳になったばかりの娘の優菜は、彼女と友達になれたと喜んでくれているし、近くに住む漁師たちも受け入れてくれるようになってきてくれている。


日差しがどんどん強くなってきて今の季節らしい風が身体をすり抜けて心地が良い。僕は優菜と一緒に海岸の防波堤に来て、お目当ての魚類を釣りに来た。

優菜も子ども専用の釣り竿を構えて心を躍らせながら糸が動くまでじっと座っている。リールを回して糸を下ろししばらく待ち構えていると、優菜のもってきていた釣り箱のふたが音を立てて動いていたので開けて見ると、彼女が目を覚ましてあくびをしていた。


「あ、おはよう」

「今日も釣りに来ていたの?」

「そうだよ。パパと競争するんだ」

「優菜。今日の目標は何?」

「メバル!」


この彼女というのは、僕が以前一人でここで釣りをしに来た時に発見した、手のひらに乗るくらいの小さな人魚だ。当時、海の波がやや荒れ気味だったので直ぐに帰ろうとしていた時、糸に何かが引っかかるのに気がついて釣りあげていくと、餌とともに彼女が引っかかって腕に傷を負っていた。急いでかぎから取り外し、手のひらに乗せてたまたま持っていた絆創膏を張ってから様子を見ていた。


息をしている素振りが見えなかったので、釣り道具を片付けて車で自宅に向かい、小さな水槽に入れて目が覚ますまで優菜と見守っていると、次第にパチパチと尾びれを動かして水面に上がってきて顔を出してきた。


「私、どうしてここにいるの?」

「良かった、意識が戻ったな。俺が持っていた釣り竿に君が引っかかってしまって家に連れてきたんだよ」

「そう……これ、何を貼ってあるの?」

「絆創膏というものだよ。腕、重いかい?」

「うん。一度外してくれるかな?」


彼女を手のひらに乗せて絆創膏を外すといつのまにか傷が消えていた。腕を動かして長い髪を乾かすと、しばらく机の上に乗せていてくれと言ってきたので、僕たちはなぜここの海辺に辿り着いたのかを訊いてみた。


「それが……私の住んでいた海底が誰かに荒らされてしまって、一緒にいた家族ともはぐれてしまったの。もう会えないのかしら……」


彼女は涙を流して小さく泣いていた。優菜が一緒に探しに行きたいと言っていたが、遠い南にある温かい海から流されてきたのでそう簡単には帰れないと返答した。


「パパ。どうにかならないのかな?」

「この子が言っている限りは迷い道に入ってきてしまったんだな。ねえ、その南の海ってどの辺になるんだ?」

「ここの海よりも青くて透き通った海。魚もサンゴたちもたくさんいる場所なの」


僕はとにかく考えた。彼女の言っている海とは日本なのか外国なのか、パソコンで調べ尽くしたが数がありすぎてキリがないと思った。

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