最後になく蝉

爆裂五郎

最後になく蝉

あれだけたくさん鳴いてたセミ


台風を境に音を減らしてゆく


それでも合唱といえるほどには鳴いてたのに


ついには全く鳴かなくなった


もうみんな死んでしまったのかな


そう思ってから一週間が過ぎ


一匹のセミの声がする


これは何のセミだっけ?


そんなことは気にならなかった


彼は今、何を思っているのだろう?


仲間達は既にいない、外も涼しくなりつつある


暑すぎるのも問題だが、セミには涼しすぎるのも厳しいはずだ


もしかしたら、メスのセミは居るのかな?


メスは鳴かないから、人には居るかどうかわからない


それなら希望はあるはずだ


がんばれ鳴いてメスを呼べ




でも、もし本当に誰もいなかったら?


彼が、本当に独りだったとしたら?


もし彼がそうと自覚したなら、彼は何を思うのだろう?


種としての役目も果たせず、鳥や虫の餌になるだけなのかな


あるいは、ひっくり返ってるところを人間に踏み潰される最後を迎えるのかな


彼は本当は、泣いているのかな


でも、もしそうでも、彼の存在は無意味じゃない


今こうして、彼の声を聞いている人達がいるから


周りの人達は、来年には忘れているかもしれない


でもわたしはきっと、ずっと覚えていてあげる


それでも、いつかわたしもいなくなる


そうなったら、彼の生きた証はどこにいくのだろう


彼もわたしも、おんなじだ


ただわたしは、なるたけ彼の分も生き続ける


この地球の歴史家が、彼のことを記録してくれるのを願って

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