第11話 リトル・サン

「テレビをご覧のみなさーん、ついに人類を、そして、地球を救う画期的な商品が開発されましたよ。これがあれば未来はバラ色、バラ色ですよー」

 ディック・スモーラーは、六本木ヒルズにある個人事務所で午後のティータイムを過ごしていた。月300万円の部屋代もこの男が手にした大金からすると大した額ではない。200万円はするソファーに深々と座り、テレビのスイッチを入れると、このテレビショッピングの画面が飛び込んできたのだ。社長自ら出演して、独特の節回しで電気製品から家具、寝具、食料品に至るまで何でも売ってしまうという人気の通販番組だ。


「ニッポネット♪、ニポネット♪♪、ニポネット・イマイの今井です。今回の新製品は世界のエネルギー情勢を変える画期的な商品になりました。みなさん注目ですよ。ニッポネット♪ ニポネット♪♪」


「なにを大げさな」

 ディック・スモーラーは思わず笑った。

「はーい、みなさん、この商品を見てください。このオレンジ色の箱が人類を地球を救うんです。そうです、救うんです」

 社長の今井の横に置かれているのは、センスの悪い蛍光オレンジに塗られた何の変哲もない小型冷蔵庫の様な箱だった。


「はい、これこそ人類の英知の結晶、小型常温核融合じょうおんかくゆうごう発電器、その名も「リトル・サン」、日本語に訳すと「小さな太陽」です。地球温暖化の元凶、二酸化炭素は全く出ません。放射性物質も出ません。温暖化、核汚染、環境破壊、これらすべてを人類は乗り越えることができたのです。そうです、できたのです」


「なにが常温核融合だ。なにが小さな太陽だ。ふざけやがって」

 ディック・スモーラーは、そうつぶやくとコーヒーを一口含んだ。

「それでは、この装置を開発した二人の天才科学者に来てもらいました。どうぞ拍手でお迎えください」

 白衣を着た男と女が拍手に出迎えられ、にこやかな笑顔で入ってきた。

 その二人を姿を見たデック・スモーラーの口からコーヒーが噴き出した。

「ジュリー、渡辺………、」

                                    

                                  つづく


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ワープ 02 ~箱バン型転送装置~ かわごえともぞう @kwagoe

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