設定厨の反省

嶌田あき

さなコン1次通過→まさかの1行コメント→人間六度さんによる救済コメント

 昨年にひきつづき、第3回日本SF作家クラブの小さな小説コンテストというのに参加していたのですが、私の応募作品「ワッフルとカフェラテ」(https://kakuyomu.jp/works/16817330656945178216/episodes/16817330662112290745)は1次通過したものの、最終には残れずで、まぁお祭り好きとしては最後まで楽しもうという感じだったのですが、公式からの1次選考フィードバックコメントがなんと1行しかなくて「これでどうするんじゃー」とモヤモヤしていたのですが、人間六度さんが読んでコメントくださるというので応募(?)してみました。


 こちらがそのコメント全文です(公開OKということでそのまま貼ってます)。何かの参考になればと嶌田の返答も入れてみます。以降、行頭「#」が人間六度さんのコメント、行頭「>」が嶌田です。


#いや〜これは、面白いですね……。

#僕が担当だったら絶対3次に上げてました。

#なんでこれが上げってないんだろう。うーむ。

>これはまじで「うれしぬ」ですね。


#……とかたらればの話しても仕方ないので、いいところと悪いところを考えていこうと思います。

>ホントそう思います。2次落ちは2次落ちなんで、ここからどうするかが大事。感謝しかないです。


#まず個人的な話ですが、

# @最新の屈辱

# @下手くそでも、家事ロボットの代わりは私でありたかった。

# @世界と同じだ。長いことふつうの動作をしてないと、元に戻れなくなる

# この辺りがとても良かったですね。エモSFのジーンを感じた。伝えたいメッセージ性、言葉選び、僕のタイプです。タイプですし、客観的にみてもセンスがあると思います。

>このあたりはキーボードに力入ってたところなので、受け取ってもらえてほんとうれしい。


#また、本作品最大の山場であるところの

# @「だからリョータと相談して決めたんだ。いつ神経が元に戻ってもいいように、脳に身体のことを忘れさせないようロボットにつないでおこうって」

# リョータがロボットみたいにぎこちなくなったんじゃなかった。

# ロボットがリョータ化していったのだ。

# @サンドの機械 のネタ

# この気づき、とても良かったです。エモSFに必要な全てを備えていると思いました。いいシナリオだなと思いました。


>書いてよかった。他のトピック(もりこみすぎ(後述))と比べて、個人的にこのあたりは力入れてたという点がそれなりにそのウエイトのまま伝わったんだ、とすこし安心しました。


# ですが事実この作品は落とされてしまった。なぜなのか。考えられる原因は3つ、まず

# プラスチッキー

# 経済関心

# 自動化考古学

# 身体同期による記号創発

# この辺の、読者の理解をなおざりにした表現の数々ですかね。僕は、なんとなく言いたいことはわかったんですよ。でもそれは、多分我々の思考回路が近いからです。わからない人には、全くわからないと思います。


>うぐっ。手を抜いたところを完全に射抜かれました。とくに関心経済アテンション・エコノミーとか記号創発はメインテーマにしてそこを深掘りすべきかなーと思いながらも、そもそも自動化考古学ってもっとまじめに書かなきゃだめだろ、と揺れながら書いてました。やっぱ気がそぞろなのがバレバレですね。


# こういう甘さを徹底的に排除することで、かなり違った印象になると思います。

# わからなくても雰囲気だけ伝わればいいだろ、という考えは一旦捨ててください。エヴァは映像だから面白いのであって、少なくとも公募用の小説でやってはいけません。わかりやすさの目安といては、自分の母親や妹に読ませて理解されるかどうか、です。


>御意すぎる。1万字とか制限がかかってるときに「わからなくても雰囲気だけ伝わればいいだろ」を優先して、いろいろと盛り込みすぎなのはほんと悪い癖だと思います。


# 次に、シーンの踏み込みが全体的に甘かったように感じます。出てきているネタ一つ一つ、なんとなく面白そうではあるんですが、掘り下げが足りません。自覚してください、あなたは設定厨です。僕も設定厨です。設定厨とは風呂敷をやたら広げたがる生き物ですが、そのやり方ではダメなのです。設定厨は、設定の深さで勝負しなくてはいけません。


>これなんですよ、これ。設定厨はほんとそう。「設定の深さで勝負」紙に書いて壁に貼りました!


# ホームボットシステムの瓦解により、少しずつ崩壊に向かっている世界、この映像もとても良かったです。しかし肝心のホームボットシステムの崩壊理由が、いまいち踏み込みが足りないように感じます。

# またリョータがホームボットシステムに管理されている状況の解像度も荒かったです。ウエイトを割くとしたらまずここでしょ。ここがしっかりしていないと、ユカの絶望が弱くなる。

# それから汎用家事ロボットはよく出てくるガジェットだったので、最初に外見を正確に描写しておいて欲しかったです。


>このあたりは字数制限下での優先順位づけを誤った感はありますね。どこが読者にとっておもしろポイントなのか、どこは精緻に書いておかなければ読者は補助線なしには描けてなかったのか、完全に見えてませんでした。とりあえず「全部盛り」をしておいて、誰かがどこかに食いついてくれればそれでいいや的な怠惰があったのかと思います。反省。


# 最後に、これはそこまで大きな瑕疵ではないと思いますが、カイトが悟りすぎ問題があるかもしれない。ちょっと足りないんすよね、カイトの心境を掘り下げる尺が。掘り下げないとするなら、少しカイトの都合が良すぎる。ユカに対する恋愛感情は、もしかしたらなくても良かったのかも、と思います。

# さっき僕はポジティブな文脈で書きましたが、

# ロボットがリョータ化していったのだ、という部分はやっぱり説明が足りないかもしれません。


>そうなんですよね。カイトは中途半端。カイトはユカのことがすごく好きなのに頭良過ぎで先回りし過ぎで忖度しすぎな面があって、そこが悟りすぎっぽくなってしまってる。なんか感情を出し切ってない感じはするんですよね。


# この作品、ぶっちゃけ身体同期による記号創発、この一点が伝わってさえいれば、通っていたと思うんです。しかしその扱いが少し荒かった。

# 面白い設定、魅力的なキャラは欠けていました。足りていなかったのは、細部へのケアなのかな、と思います。


>ここはほんと難しい。私が込めたメインテーマは「普通とは何か」だったのですよね。リョウタのワッフルも、カイトの麦茶ラテも、それがその人にとっての「普通」で、その強さや儚さをうまいこと描ければな、というのがこの作品で私が挑戦したかったことなのですよね。ただ指摘の通りそれが最後まで「記号創発」とは結びつかなかったので、こっちの目立つ言葉からすると、荒く見えてたのかもしれません。結局は、作者のメッセージが読者に適切に伝わってないことを物語っているのですね。これはほんと精進しないといけません。


# まずはご自身のアイデアに自信を持ち、そのアイデアの10%でも凡人に伝わるように工夫してみてください。設定厨には元々1500%のポテンシャルがあるわけです。あなたにとっては10%でも、凡人にとってはちゃんと150%になってるはずです。


>肝に銘じます! この1500%を煮詰めて、削ぎ落として、噛み砕いて、丁寧に、伝わるように工夫していきたいとおもいます。




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