オーロラの雨
藤泉都理
オーロラの雨
恋は成就する。と言われている。
「オーロラの雨」という飴をオーロラの下で食べたら。
こんな危機的状況下でのんきに恋愛にかまけている場合かというなかれ。
こんな自由な時間が限られている状況だからこそ、恋愛を成就させたいのだ。
「オーロラの雨」を大量購入して、片想い中の相手である彼女の隠れ家に身を寄せた。
ここは北海道のとある場所だ。
日本でオーロラが見られる可能性が高い場所である。
しかも今年はさらにその可能性が高いらしい。
これはお導きだ。
成就させよと。
恋を。
こいこいオーロラよこい。
寒いから家に入っていなさいと彼女に言われたので、窓にへばりつきその刻を待った。
待った、待った、待ち続けた。
目が充血するまで待ち続けた。
結果。
天は味方してくれたらしい。
恋の神様ばんざい。
たくさん着込んで、「オーロラの雨」を持てるだけ持って、夜の世界へ。
赤く染まるように光るオーロラの下へと馳せ参じ、彼女に見られないように「オーロラの雨」を何個も何個も口に入れては噛み砕いて、持って来たその飴を全部食べ終わって、いざ。
緑のカーテンが見られたらいいのになと呟く彼女に向かい合い、愛の告白を果たそうとした時だった。
ああ、神様。そんな、ひどい、ひどすぎる。
「坊ちゃん。もう休暇はお終いです。帰りましょう。
ひょいっと家庭教師に楽々と肩に担がれた少年は、暴れて脱出しようと考えて、はたと、そんな無様な格好を彼女に見られたくないと思い直し、抵抗を止めて、帰るから降ろしてくれと言い、地に立つと、涙を飲んで、彼女にお世話になりましたと頭を下げた。
また会いましょう、とも。
「ああ。待っている。また私の隠れ家においで。いつでも歓迎しているよ」
「っはい」
オーロラはまだ観測できていた。
つまりは、晴れているのだ。雲ひとつない事だろう。
「坊ちゃん」
「坊ちゃんは止めろ。名前で呼べ」
近くに止めてあった黒の高級車の後部座席に乗り、出発するように運転する家庭教師に告げた。
彼女は見なかった。
見えなかったのだ。
「ああ。実に有意義な時間だった。よし。じゃあそろそろ。私もやす「先生」
「おや」
「おや。じゃありませんよ!先生!よーやく!見つけましたよ!」
「おやおや。見つかったな。また新しい隠れ家を見つけなければいけないな」
「そーじゃないでしょ!逃げちゃだめでしょ!締め切り!間際!」
「失礼な。逃げてなどいない。場所が変わると捗るという言葉を知らないのかね?」
「えっ!じゃあ!もう書き終わったのですか!?」
「いいや。友人の子どもを預かっていたからな。彼の教育、もとい、遊びに勤しんでさっぱりだ」
「………っこんちくしょう!」
先生と呼ばれた彼女の担当者は、ポッケに入れていた「オーロラの雨」を一袋全部噛み砕き食べ終えると、オーロラに向かって叫んだ。
滂沱と涙を流しながら。
大丈夫これから書くから。
声かけても今は届かないだろうから黙って見守っていた彼女は、やる気が出たからと心の中で言葉を紡いだ。
「ふふ。次に会う時が楽しみだな」
(2023.9.22)
オーロラの雨 藤泉都理 @fujitori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます