エピローグ ─満月が見ていたもの─

 スノーホワイトは壁に手をつき、時々よろめきながら来訪者のアジトの中を歩いていた。

 白いローブは所々破れ、全身に擦り傷を作り、その傷のいくつかからは血が流れていた。まさに満身創痍の状態だった。

 ホワイトは出口を探して彷徨い歩いた。

 彼は呼吸を整えようと、ドアのない、とある部屋の前で腰を下ろした。

 そこで右のあばら骨が二、三本折れているのに気づき、冷たい氷を作り出して右胸の脇にそっと当てた。

 彼は部屋の中を覗いた。その部屋は牢獄だった。

 部屋の奥で、小さな息遣いが聞こえた。

 ホワイトは何とか立ち上がり、M92を握って息遣いのする方へ行った。

 

 部屋のいちばん奥の牢獄に、足枷をつけられた銀髪の幼い男児がいた。男児の耳は尖っていた。

 「君はエルフか?」

 男児は怯えた様子でこくりと首を縦に振った。

 「ちょっと待ってて」

 スノーホワイトは牢獄の鍵穴に指を入れ、指先に発生させた氷で鍵を作り、牢獄の鉄格子を開けた。

 「大丈夫。怖がらなくていい」

 ホワイトは静かに歩み寄り、足枷を鉄格子と同様に氷の鍵で外し、彼を自由にした。

 「もう大丈夫だ。おうちに帰ろう」

 優しい声でホワイトは男児に話し掛け、手を差し伸べる。

 エルフの男児は小さな手でホワイトの手に触れた。

 

 満月の光が、森や山々を穏やかに照らしていた。

 その満月の下を、エルフの男児を背負ったスノーホワイトが歩く。

 背中の男児は寝息を立てて眠っていた。

 男児が眠る前に、少ない口数で教えた道順が正しければ、スノーホワイトはエルフの里に辿り着く筈であった。

 ふらつきながらも、絶対に意識を失うまいとして何とか歩こうとするスノーホワイトと、安心しきった顔で眠る男児の二人を、満月が優しく見守っていた。

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スノーホワイトという名の男 〜異世界は都合の良い楽園ではない〜 かいばつれい @ayumu240

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