残されたリョウタ

 ホワイトはM29のラッチを引いてシリンダーをスイングアウトし、エジェクターロッドを押して薬莢を捨てた。次に、スピードローダーにセットした弾薬をシリンダーに詰め、シリンダーを元の位置に戻し、リロードを完了した。

 先ほどの戦闘で落としたショットガンを拾うほどの気力はホワイトには残っていなかった。

ホワイトがリョウタのいる部屋へと戻ると、リョウタはまだ塞ぎ込んでいた。

 「リョウタ、君はエルシィのことが好きだったのか」隣に座ったホワイトが言う。

 「…………うん。好きだった」ようやくリョウタが口を開いた。

 「前の世界では、学生の頃から女に縁が無かったんだ。就職してもそれは同じで、管理職に就いた俺をみんなが目の敵にした。でもエルシィは違った。俺に話し掛けてくれて、とても優しかった。俺も初めは、自分が彼女をそんなに好きになっていたなんて、全く気がつかなかった。森でラクタたちに変な腕輪を嵌められた途端、エルシィを好きだって思いが膨れ上がって、彼女にどうしても思いを伝えたくなったんだ」

 「彼女を手にかけたのは、本当に振られた腹いせからか?」

 リョウタは無言で頷く。

 「君は衝動でそんなことをするような人間じゃなかった筈だ」

 「この腕輪が俺に語り掛けてきたんだ。この女にお前は誑かされたのだ。この女はお前の心を弄んだ悪女だ。怒れ、殺せって。気づいた時には、俺の右腕が勝手に動いて、エルシィに光弾を放っていた。エルシィのお父さんやお母さん、そして村のみんなにも光弾を浴びせて村の全てを破壊してしまった。俺は取り返しのつかないことをしたんだ」

 腕輪を見てリョウタは語った。

 「エルシィは冷たい態度で突き放したりしなかったんじゃないか?」

 「ああ。頭が冷えた今ならあの娘の言葉を思い出せる。あの娘はこう言ったんだ。『待って。私、リョウタさんのこと、嫌いじゃないわ。とても好きよ。でもね、その好きは恋とかそういうのじゃないの。だから、ごめんなさい』って」

 リョウタの瞳から涙が溢れ、その涙が頬をつたう。

 「そうか。君は来訪者の被害者だ。やつらのせいで君は殺戮者にされてしまった」

 「いや、あいつらだけが悪いんじゃない。エルシィを好きだって思いは俺の心の中に最初からあったんだ。俺にこんなに優しくしてくれるのだから、きっと彼女も俺のことが好きなのかもしれないと一方的に考えていたのは事実だ。あいつらは俺の邪な気持ちを引き立てさせただけだ」

 「本当にそう思うのか?」

 「ああそう思う。俺は最低だ。最低のクソ野郎だ。もう元には戻れない。あれだけのことをしておいて、静かに暮らすことなんてできない。俺の僅かに残っている良心がそれを許さない。だからスノーホワイト、アンタに頼みがある」

 「うん?」

 「身勝手な頼みだが、俺を殺してくれ。ほかの来訪者と同じように」

 「リョウタ……」

 「俺は自分でけじめをつけることもできない、卑怯な男だ。大変勝手な頼みなのは十分承知している。だが俺はそうしてもらうしかない。俺はこの世界の平和を脅かす悪党だ。アンタに抹殺されるべき人間なんだ。このとおりだ。頼む」

 リョウタは土下座をしてホワイトに懇願した。

 悲しい。一人の男の人生が、新たな希望を胸に人生をやり直そうとした男の人生が、愚かな無法者たちによって狂わされた。その事実がスノーホワイトの心を悲しませた。

 ホワイトは間を置いてリョウタの頼みに答えた。

 「その頼み、引き受けた」

 ホワイトの声は冷たかった。

 「ありがとうスノーホワイト」

 リョウタは顔を上げて言った。それは心からの感謝の言葉だった。

 スノーホワイトは撃鉄を起こしたM29をリョウタの額に向けた。

 「俺たち、また会えるかな?」

 「ああ、会える。────地獄で会おう」

 ラクタたち来訪者のアジトで、一発の、そして最後の銃声が鳴った。

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