妹と兄の華麗なる妄想

藤泉都理

妹と兄の華麗なる妄想




 兄がこっそりペットボトルを集めている。

 何で集めているのか。

 疑問には思わない。

 使い道はわかっていた。

 ペットボトルロケットだ。




 コメディアンが百本のペットボトルロケットを背負って、空気と水を発射させて空を飛ぶというバラエティ番組を食い入るように見ていたから。

 コメディアンはちょっとだけ浮いて、海に頭から突っ込んでいたけれど。

 兄はきっと、成功させる。


 成功させて、対流圏を突破して、成層圏に到達。

 そこに存在すると噂が飛び交っている高海で冒険を始めるのだ。

 まずは仲間集めだ。

 ペットボトルロケット団を結成して、高海の上を自由自在に飛び回るのだ。

 時には敵から逃げて、時には食料集めに奔走して、時には珍しいものを手にして、時には物々交換して、時には絶景にうっとりして、時には恋愛を楽しんで、時には友情を育んで、時にはペットボトルロケットの飛翔に失敗して、時には悲しい、嬉しい出会いを繰り返して、兄は成長するのだ。


(なーんて、妄想したりしてー)


 さて実際は何に使っているのか。

 いつもはノックをする兄の部屋を突撃訪問してみれば。

 おかしい。こそこそと集めていたペットボトルが一本もない、だと。

 ああなるほど。友達の家にでも隠しているのか。

 完成しているのかまだ作っているのかは知らないけど。

 私たち家族に何も言わないって事は、成功する瞬間だけ見せたい。

 ふふ、失敗する姿は見せたくないのね。

 まあ、そういう事なら。黙って見守ってあげよう。

 兄が私たちに成功する姿を見せるまで。


「あ。おい。美紀。何勝手に人の部屋に入ってんだ?」

「ごめんごめん。ペットボトルなんて探してないから安心して」

「はあ?ペットボトル?」

「いいのいいの。じゃあね。ごめんあそばせ。もう勝手に入らないから」

「当たり前だ………何なんだ?ペットボトル?スーパーにもう持って行っちまったけど、あいつ。ペットボトルで何を………は。もしや。あいつ」


 ペットボトルロケットを作って、飛んで、対流圏を突破して、成層圏も突破して、中間圏に存在すると噂が飛び交っている氷の王国に到着して、冒険を始めるつもりじゃないか。


「おいおいおい。兄ちゃんに言わないで一人で行こうだなんて。っふ。あいつめ。危険な旅に兄ちゃんを巻き込みたくないってか。まったく。しょうがねえな」


 スーパーの収拾ボックスに持って行かないで、二人分集めて、今度誘ってみよう。

 一緒にペットボトルロケットを作ろうって。

 作って、飛んで、一緒に冒険しようぜって。


「ふふ。楽しみだな」














(2023.9.21)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

妹と兄の華麗なる妄想 藤泉都理 @fujitori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ