第2話 謎だらけの男

「名前はサクラ。すこし前に死んだ人間さ」

男の意味不明な発言を飲み込めず勢いのまま言ってしまった。

「ふざけずに答えろよ、死んだ人間が見えるわけないだろ!」

男は歪な笑顔のまま、変わらずゆったりとした口調で喋り始めた。

「ふざけてなんかないよ。私は本当にすこし前に死んだんだ。そのあと何故かこの世にいるままで、ふらついていたら君が私に気づいたんだ。多分今の私は幽霊というやつなんだろうね。」

「幽霊?意味わかんねぇ」

「じゃあ証拠を見せてあげるよ。」

そう言うとサクラと名乗る男は置いてあったコップに手を伸ばした。すると、サクラの手はコップをすり抜けた。

「こんな感じで何も触れないし、自動ドアのセンサーは反応しないし、当然存在は気づかれない。だから適当に見かけた人に話しかけてたんだけど、何故か君が私を認識できて今に至るというわけだ。」

正直現実味がなくて頭は混乱状態だが、目の前で起こった事が現実だとするなら信じるしかないと思った。そして戸惑いながらも増えた疑問をどうにかして消化しようとサクラに質問し続けた。

「じゃあサクラは死ぬ前は何してたんだ。」

「それが覚えてなくてね。」

「それじゃあ何歳?」

「覚えていないがおそらく君よりは年上だと思うよ。」

「そのくらい見た目でわかるわ。…それならなんで死んだんだ。」

一番気になっていたことを少し迷ったが聞いてみた。

「……さぁ、なんでだろうな…」

その時明らかに動揺し、ずっと貼り付いていた歪な笑顔が崩れた。

少しの沈黙の時間のあとサクラが口を開いた。

「そういえば聞いてなかったが君の名前は?」

「朝野優」

「…なるほどね。」

疲れもあって返答の間に対する違和感は無視することにした。そして、無気力に布団に横たわった。

「…おやすみ」

「うん、おやすみ。」


次の日の朝、いつものように顔を洗い、制服に着替え、登校しようとするといつもはなかった声が話しかけてきた。

「不良の様なのに学校にはきちんと通うんだね。」

「まぁ別に学校は嫌いじゃないから」

「じゃあ私も着いていこうかな」

「なんでだよ!」

「優くんがどんな学校生活を送っているのか興味があるからね。それに私は周りからは認識されないからね。」

「勝手にしろよ。でも話しかけてくんなよ」

「了解したよ。」

そうして何も話さないまま学校に登校した。

教室にいたクラスメートたちは一瞬こっちを見たがすぐに元していたことに戻った。何も気にせず一番うしろの窓際の自分の席に座り、読んでいた途中のミステリー小説を読み始めた。

少しすると高く元気な声が話しかけてきた。

「おはよう!また本読んでる。もっと友達と話せばいいのに」

「うるせぇな…そもそも話す友達なんていねぇよ」

「ならつくればいいじゃん。あと私がいるじゃん。」

「じゃあお前はそのお友達と話してくれば、あとお前とは友達じゃない」

「はぁ……いつもそうやって……」

そうして彼女は諦めた様子で他の女子のグループの輪に入っていった。楽しそうに話している彼女たちを見て、

「そういうのが無理なんだよ……」

小さく溢れてしまった。

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桜に願う少年と雪の降る夜 @ayanokouji12

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