桜に願う少年と雪の降る夜

@ayanokouji12

第1話 不良高校生と不思議な男

一人でコンビニの裏で新作のカップ麺を食べていると、聞き覚えのない声が話しかけてきた。

「一人で寂しくないのかい、少年」

「うわっ!?」

「えっ!」

突然聞こえた声に驚いて思わず声を上げると、なぜか向こうも驚いた声を上げた。慌てて横を向くと、背が高く黒縁の眼鏡をかけた男が立っていた。

「君は私が見えるのか」

「何言ってるんですか。横にいるんだから当然ですよ。」

「それもそうか。ところで君はこんな時間に一人で外にいて不良の様なのにきちんと敬語を使うんだね。」

「え…うるせぇ!」

まるで見透かされたみたいに言われてハッキリと言葉が出てこなかった。そして、戸惑いを隠そうと大声が出てしまった。

「そもそもアンタ誰だよ!」

大声を聞き、不審に思ったのか店員が少し早歩きでやってきた。

「どうかされましたか」

「いえ、別に…」

「そうですか」

店に戻っていく店員を横目に名前も知らない男に話しかけた。

「場所変えるぞ」

そしてすぐ近くにあるアパートに向かって歩いた。

何も話さず、聞こえるのは風に吹かれる葉っぱの音と自分の足音だけだった。少し得体のしれない違和感を覚えたが、奇妙な状況のせいだと考え、気にしないことにした。


いつも通り、少し大きな音のなるアパートの階段を登り、320号室の鍵を開け、電気をつけた。

「お邪魔しまーす。」

「どうせ誰もいないからいいよ」

普段は何も音のしない寂しい一室が、今は少しましになった気がした。

机を挟んで座ったふたりの間に気まずい時間が流れたが、男は口を開いた。

「君はここに一人暮らしなのかい?両親は一緒に住んでいないのかい?」

予想と違わない質問に対して、用意していたかのように答えた。

「母さんは病気で死んで、父さんは俺を捨てた。だから父さんが情けでくれたこのアパートに住んでる。」

「それはまた悲惨だね…。だけど本当にお父さんは君を捨てたのかい?本気で捨てるつもりなら住む場所を与えたりなんかしないんじゃないか?」

「父さんは結構有名な医者なんだよ。だからもし俺が死んだりしたら名前に傷がつくから最低限住む場所と生きるための金はくれたんだと思う。昔から俺のこと嫌いで、笑ったとこなんか一回も見たことないし」

抑えようとしても溢れてくる怒りと不満が言葉になって全部吐き出された。

少しすっきりし、一番疑問だったことを聞いた。

「そもそもあんた誰なんだよ」

歪な笑顔をした男は少しゆったりとした口調で答えた。

「名前はサクラ。すこし前に死んだ人間さ」

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