Ep31 東くんの気持ちにも!!
思いもよらず苦笑いするしかなかった。東若葉が持ってきた書類を見た佐野麻希は。
「あの“ギア”は外部世界とこの世界をつなげられる唯一の装置。本来はプレイヤーに配るつもりはなかった。でもあのゲームはリリース当初からバグまみれで、幸か不幸かそれを手にしてしまった者がいる、と」
「そうです。原理はぼくにも分からないんですが……佐野さんが常時発動してて外せない“ギア”『ザ・ミラクル』は回りにいる者にも効果を及ぼす。たとえば宮崎さんなんかはゲーム内レベル62で、能力値もかなり高いですが、佐野さんが近くにいれば宮崎さんはその力を引き継げる。意味不明な速度で逃げ回ってロケット・ランチャーぶっ放しまくる存在に」
確かに『ザ・ミラクル』という御大層な名前をつけたくなるような性質を持っているようだ。麻希は一度頷き、ジト目で東を見据える。
「ねえ、東くん」
「……なんですか?」
「肩に力入れすぎだよ。もうすこしリラックスすれば?」
「……。それって佐野さんにも同じこと言えますよね?」
なにか反論しようと不機嫌そうな表情になった麻希を遮り、東は言う。
「この家には佐野さんを除いて3人の中高生がいます。でも佐野さんは自分の力のみで3人を守ろうとしている。違いますか?」
「それのなにがいけないのさ」
「人間の容量には限界があるってことですよ」
東は意味深長にそう言った。
「それでも私がやらなきゃ駄目なんだよ」
「なにを?」
この家の住民の睡眠起床時間はどうなっているのであろうか。昼間だというのに佐野麻友が目をこすりながら現れた。
「あ、や。麻友に言ったわけじゃないよ」
「じゃあ誰に……誰?」
八重歯がチャームポイントの少女麻友は、濡れているように美しい黒髪の少年へ怪訝そうな目線を送る。
「あ、え、あ……」
(人見知り? ……。助け舟出すか)
間髪入れず、
「ああ、この子は創麗からやってきた監査員だってさ。きのう話しただろ? 色々と」
「え、もう来たの? てか、こんな子どもが?」
「東くんって何歳?」
「あっ、自分12歳です……」
もじもじする東若葉。なにをそんなに照れているというのか。麻希は不思議に思い、麻友をもう一度一瞥する。そこでアルビノの少女は答えを見つけ出すのだった。
「麻友、自分の家だってのは分かる。誰もいなかったってのも分かる。でもね、パンツとブラジャーのみで家を徘徊しちゃ駄目だと思うんだ」
「なんで? 涼しいじゃん」
「東くんの気持ちにもなってあげてっ!!」
こうしてみると、規律というものがなさすぎたのかもしれない。麻友が裸一歩手前の姿で家の中を歩き回るのはいつものことだし、宮崎が風呂嫌いなのも変わらず。もうひとりに至っては謎と混沌に包まれている。
「分かったよ……。東くん、だっけ?」
「は、はい」
「あたしのお兄ちゃんに手ェ出すなよ?」
とてもドスの効いた声だった。色々ツッコミたいのだが、そもそも麻希が自身の正体を明かしているのか分からないのにお兄ちゃんと呼んだら駄目だろう。
New Frontier Stories-クライムアクションVRMMOで【虚空夜叉】と【仮想通貨】を手にしたアルビノ美少女(中身オタク男子)が現実世界でも無双するだけ- 東山統星 @SBR_JAPAN
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