第2話 あ、それって聞いてくれないんだ

力が欲しいか


とか聞いてくれるもんだと思っていた。

玄関の向こうから入ってくるでもなく語りかけ続ける自称女神の声は、少女のように響いた。


「一旦ここでおしまいにしちゃおうと思うんですけどぉ、大丈夫そうです...ね!はい、では次の段取りのご説明しますね!」


次の段取り...?

いや死なせてくれ....


「この後ですね、ちょっと派遣されて頂きたい世界がありまして...あ、大丈夫です別に世界を救ってもらったりとか強制する物でもないので!なんかあちらの世界の方から救援要請が広く出されてましてですね?それを無視する訳にもいかずって感じなんですぅはい〜」


私がなんの返事もできないのをいいことに女神(自称)はまだ続けた。


「色んな世界から適当に同じ感じで派遣されてくるはずなんで!数打ちゃ当たるというか!うちも一応義理で派遣はするんですけど、そんな気負って貰わなくて大丈夫ですし、楽しくやって下さい!あ、仕事とかはお気になさらず!なんかそれっぽいこと聞かれたら『吟遊詩人』って答えておけば問題ないですので!マイク入れときますね!」


どこにだよ、てかなんだそれめちゃくちゃ雑...


「このマイクなんですけどぉコードレスで充電不要、永遠に使えて、カラオケも流れるんですよぉ〜」


ジャパネットか?夢グループか?


「ただし気をつけてくださいね、力には対価が必要ですのでぇ〜」


異様に物々しいマイクじゃないか


「1曲1回につき約5円支払いが発生しますぅ〜」


異世界転生した後どうやって払うんだよというツッコミも喉からは出ない、悔しい、こんなクソマイク握らされて異世界転生だなんて...


「ラップで精神に直接干渉して最終的には爆発するマイクとかがある世界もあるのでぇ〜」


ラップで???????


「充電不要はおまけというか、ギリギリできる対抗策ですぅ〜」


しょぼすぎる.....


「で、溜まったお支払いは世界が救われた後にこっちに帰ってきてから少しづつ返済されていきますぅ〜。返済方法は、日々のお買い物のお会計が実際よりもちょっと多い、という形で回収しますぅ〜」


しょぼすぎる....輪をかけて....


「では吟遊詩人としてのセカンドライフを始めてみましょ〜ぅいってらぁ〜!」


無抵抗の瀕死の人間にかける言葉とは思えぬ言葉を一方的に遠くから浴びせかけた後、女神は去った。その後光に包まれるとかトラックに轢かれるとかの大層な演出も無く、私はひっそりと息を断つのであった。

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ゴスロリ吟遊詩人〜JA○RACマイクでバフ盛りしろって正気ですか?〜 泥桃 @obon111

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