最終話 雛菊

「パパ―! ママ―!」


「こら、走ると危ないって言っただろ」


 あれから六年が経っていた。


 暫くは拘禁されていた俺たちも、結局は解放され、各々の暮らしに戻っていった。


 江口は相変わらず“ブルー・エンジェル”の店主をしている。ほどほどに繁盛しているようで、時折、近況を知らせる手紙が届く。


 安達は相変わらず、のんびりとやっているようだ。家族も復調したと、この前やって来て教えてくれた。


 俺とナオミは入籍した。割れ鍋に綴じ蓋とでもいおうか。お互いずけずけ言い合える間柄だったから、変な気を遣うこともなくやっている。


 今日は、デイジーの命日で、墓参りに来ていた。機械に命日などというのはおかしいかもしれないが、俺たちにとってはそれで正しいのだ。


 江口と安達は一足先にやって来ていたらしく、墓標に花が添えられていた。もっともここにデイジーはいない。今は、人類を救った少女として、博物館に展示されている。


 線香に火を点け、備えてから三人で手を合わせた。ナオミと俺と、その子供のヒナとの三人で。


 うららかな日差しが降り注いで、暖かい。


『ナルミン☆』


 去り際に、あいつの声が、聞こえた気がした。ナオミと顔を見合わせる。あるいは、風の音だったのかもしれない。でも、俺は前者だと思ったし、ナオミもそう感じたらしかった。


「デイジー……」


 今日も優しい風が吹いている。それは、楽しげな数多の声を乗せ、吹き抜けていく。


 どうか、覚えていてほしい。たった一人、その身を捧げた少女がいたことを。どこまでも能天気で、それでいて本心を固く隠した少女のことを。誰よりも人間を愛し、人間から愛された少女がいたことを……。


「またな」


 そう、呟いた。


 きっと、明日も晴れるだろう。

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最終兵器は準備中!? 相原静 @wcdk9d34A

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