第3話 いない人物、いない筈の人物
俺と義妹のゆかりはいつも一緒に登校をしていた。
少なくとも昔からそうだった、筈である。
……タイムリープが長過ぎて、過去にどうやって登校していたのかすっかり忘れてしまったが、少なくとも6月の間はずっと一緒に登校していた。
そしてもう一人、お隣に住んでいる幼馴染の草木まこととも一緒に登校をしていた。
彼女との付き合いが長い事は覚えている。
なんだかんだで小学校、中学校と一緒だった。
そしてなんだかんだ高等学校でも一緒で、その上クラスもずっと同じだった。
こういうのってなんだかんだ同じ人が揃わないようにしそうなのだが、違うのだろうか?
……しかし、家を出てみるといつもいた筈のまことの姿はそこになく、代わりにそこにいたのはまさかの後輩の今井なこだった。
今井なこ?
彼女が登校前にこの家にやって来る事は今までなかった――いや、タイムリープ中に何度か来ていた事はあったが、それは彼女とかなり親密になってからだった。
彼女は誰にも愛想が良い人物であるが、それでもしっかりと人との距離感を弁えている人物でもある。
だからこうやって相手に何も言わずに人を訪ねてくると言う事は、何というか彼女らしからぬ行動だった。
首を傾げる俺に対し、彼女はぱっと表情を輝かせて「おはようございますっ、先輩!」と元気よく挨拶をして来る。
「今日も良い天気ですねっ!」
「あ、ああ。そういうなこは元気いっぱいだな」
「はなまるこちゃんです、先輩――えへへ、先輩的にこういう私の方が大好き、ですよね?」
確かに彼女が元気一杯にしていると、見ていてとても元気を貰える。
ぱっとひまわりのような笑顔がとても印象的な彼女が涙を流す姿なんて見たくないし、そうでなくても彼女は笑顔でいる方が可愛らしい。
「うふふ~、私は先輩のカワイイカワイイ後輩ですから!」
そんな風に身体を揺らす彼女に対し、俺に続いて家を出て来たゆかりが少し羨ましそうに見ている。
「本当に、なんていうか凄いわね」
「ゆーちゃん、おっはー」
「……おっはー」
「ん! それじゃあ、学校に行きましょっか!」
と、元気よく大手を振ってこの場から立ち去ろうとする彼女に俺は「ちょっと待て」と声を掛ける。
「その前に、まことを待たないと。あいつ、珍しく寝坊をしたのかな」
「ああ、まこと先輩は先に学校に行ったみたいですよ?」
「え、そうなのか?」
「はい。私とすれ違って、その時に「侑くんと仲良く登校してね?」って言ってきましたから」
「侑くんと仲良く登校してね?」のところはやたら上手い声真似だった。
俺はそれを聞いて「そうかー」と返しつつもやはり違和感を拭えなかった。
……6月以前の事はやはり上手く思い出せないけど、それでも彼女とはずっと一緒に登校していた筈だ。
それが急に、どうして一人で学校に向かったのだろう?
何か、あったのだろうか?
「ま、きっとまこと先輩にもやる事があるって事ですよ先輩」
「そうかなぁ……」
「……というか、そういうのは歩きながら考えるべきよお兄ちゃん。遅刻しちゃうから、早く登校しましょう?」
「うーん」
曖昧に頷きつつ、俺は二人と一緒に学校へと向かい始める。
やっぱり何というか、違和感がある。
新しく迎える事となった7月。
一体何が起きているというのだろうか……?
タイムリープが終わったけど、全周回分の好感度がヒロインにインプットされました カラスバ @nodoguro
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