第7話 目覚め

 ─夜が明ける。

 もうそろそろ魔法が解除されて2人が目覚めるだろう。


 昨夜、ステラは報告を終えた後、付近の散策をしていた。

 また、魔獣のような独自の魔法体系を持つ生物に会えるかもしれない、そんな期待を持って。

 だが、特別何もなかった。

 まぁ仕方がないかも知れない。

 一応ステラは、僕の【星騎士プラネットナイト】に2人の警備を任せてはいたが、万が一に備え、そこまで遠くには行かなかったのだから。

 ちなみに、その【星騎士プラネットナイト】はステラの【ディメンション:アイテムボックス】内に常駐させている者達だ。

  ともあれ、そんなに調子でステラは朝まで時間を潰したのだった。

 

 「…あなた達は…帰って…いいよ…【ディメンション:アイテムボックス】…」


「はっ!畏まりました!またいつでもお呼びください!」


「…ん…おつかれ…」


 そうして【星騎士プラネットナイト】達が戻っていく。

 これで後は彼らが起きるのを待つだけだ。 


 30分ほど経っただろうか。

 漸く、深い眠りからキースが目を覚ます。

 

「外が明るい…寝てしまったのか。おい、ベン!目を覚ませ!」


「あれ…?僕、寝てしまっていたのですか?」


「あぁ…それに、ここだけの話俺も寝てしまっていた。」


「え!?キースさんって元Cランク冒険者ですよね!?そんなこと…ありますか?」


「いや、何日も寝てないのならまだしも、流石に1日程度は我慢できる。事実、昨日の地点では眠くはなかったしな。もしかしたら魔法でやられたかもな…」


「ステラさん!?」


「あまり声を出すな、本人に聞こえていたらどうする」


「す、すみません…」


「それに、何も彼女が魔法をかけたとは限らない。この森は魔族領に近いんだ、何かそういう効果があるなんてこともある。」


「それでも彼女が怪しいのには変わりありませんよ…」


「まぁ、見たところ、身体に異常はないし道具も盗まれていない。仮に彼女が何かしていたとしても、俺らじゃどうにもできない。」


「それもそうですね…でも、警戒だけはしておきましょう」


「あぁ、元より俺もそうするつもりさ。なんなら、村にも何とかして行かせないようにしてみる。」


「…愚か…」

 

 ボソッと聞こえない程度にステラが呟く。


「…私が…気づいてないとでも…」


 彼女は少し苛立っていた。

 確かに2人は少し離れていれば聞こえない程度にコソコソと話していた。

 しかし、それもこれもステラには筒抜けだ。

 なにせ彼女の、というよりも六将達のスペックは人間とは次元が違うのだから。


「…これも…陛下の為…我慢我慢…」

 

 そうだ。陛下の為なのだ。

 確かに、人間如きが自分を誘導しようと考えていることに怒りを隠せないが、こんな事で任務を失敗させれば、それこそ陛下に顔向けできない。


「ステラさん大分、明るくなってきましたし、そろそろ出発しましょう!」


「…わかった…」


「それじゃあ、村まで案内する。嬢ちゃん、付いて来てくれ。」


 キースは進み出す。

 後を追うようにベンとステラも進んで行く。

 

 それからどれほど経っただろうか。かなり歩いた。

 外はもう、暗くなり始めている。

 ステラは思う。流石に村まで遠すぎないか。


「さて、村に行く前にこの辺りに大きな街があるんだ。そこで今日は少し休憩しよう。」


「…あと村まで…どれくらい…?」


「半日はかかるぞ。」


「………」


「さ、街には宿もありますから。早く向かいましょう!」


「…わかった…」


 そうして一行は街に向かう。



──セルムウィンド。それがこの街の名だ。

 王国でも1,2位を争う程に大きい街である。

 ここは人口も多く、メインストリートは活気に溢れていた。


「…ふーん…ここは…どんな街なの…?」

 

「はい…ここは、対魔族用の要塞都市で、魔族が攻めてきた時には最初の防衛地点となる場所です。」


「…対魔族…?」


 エピック・ワールドにも魔族はいたのでステラは魔族とは何かがわからない訳ではない。

 しかし、彼女の知っている魔族はこの都市程度じゃ止められない程には強い。

 

「はい、多くの冒険者がここに滞在しており、いつでも魔族に対応できるようになっています。それに対魔族様の結界も張っています。」


「…それじゃあ…魔族を止めるのは…難しいと…思う…」

 

 あくまで彼女が知っている魔族の話だが。


「いや、殆どの魔族はこれで止められるぞ。なにせ、この街にはAランク冒険者集団の【守護者の盾】が居るんだからな。」


「…誰…?」


「まぁ、旅人である嬢ちゃんが知らないのも無理はないな。【守護者の盾】は対魔族のプロフェッショナルでな。それに関してはSランクにも届くとまで言われているんだ。正直、彼らがいる限り魔族はこの街より先には進めないだろう。」


「…【守護者の盾】…か…今度…会ってみたい…」


「それはちょっと難しい話だな。彼らは何かと忙しいから。」


「…それは…残念…」


「ま、取り敢えず、早く宿に行こう。あまり持ち合わせがないから俺達はそこら辺の安い宿に泊まるとする。嬢ちゃんは好きな所に泊まりに行きな、どこに泊まるかさえ教えてくれれば、明日の朝迎えにいくから。」


「…お金…ない…」

 

「え…?、お金ないのか?」


「そ、それじゃあ僕が出しますよ!少し痛い出費ですが、並程度の宿なら泊まれると思いますので。」


「…別に…わざわざ…泊まらなくても…いい…」


「いやいや、女性1人で夜中に歩いたりなんかしたら変な冒険者に襲われるかもですよ!」


「…反撃…する…」


「無理ですよ、そんなことしたらステラさんが捕まってしまいます」


「…意味…不明…」


「この街は冒険者至上主義なんですよ。

ここ…対魔族の要塞都市において強さはそのまま評価につながります。

そしてそれらは冒険者ランクが基準となります。

ここの人達はBランクやCランク上位の冒険者ばかりです。

なので、仮にステラさん程強くても、高位の冒険者で無ければハッタリだとか言われて貴女が罰せられてしまう。」


「…はぁ…わかった…宿に泊まる…」


「分かってくれたなら嬉しいです!」


「…じゃ…そこにする…」


「はい!そこの宿なら僕も昔泊まった事がありますが、安いですし、設備も整っています。良い選択です!」


「…ん…」


 ステラは受付を終え、彼らと別れた後、部屋に入る。


「…『気配感知Lv.Max』…」


 探査系の魔法でも最も低位の魔法であるこれは、何者かもわからないが誰かいるのが分かるだけの魔法だ。

 ただ、この場合レベルがマックスなのでかなりの範囲を感知できる上、ある程度近づけば超大雑把な情報程度は掴める。


「…いた…」


 まだ、先の2人は近くにいるので直ぐに場所がわかる。

 後は彼らの動きを気配で見るだけだ。



「よし、ベン。帰るぞ。」


「はい、勿論です。」


 2人は今まさに、街を出ようとしていた。

 ステラという少女には悪いが彼女は何か怪しい、そんな存在を村には連れて行きたくない。その一心でわざわざ村を越えて、この街まで彼女を連れてきたんだ。

 もし、自分達が逃げたと知られれば、彼女は激怒するかもしれないが、幸いこの付近には幾つか村がある。

 その上、村の場所を隠しながら森を入り組むように進んだのだ。

 土地勘がない彼女じゃあ、どこから自分が来たかさえもわからないはずだ。

 自分達がどこの村の者かなんて絶対にわからないだろう。


「すまんな、嬢ちゃん。」


 そうポツリと呟き、キースとベン歩みを進める。


 …そして、直後─、彼女ステラが目の前に現れた。


「…人間風情が…愚か…も頂いたことだし…少し…付き合って貰う…」


 

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最強配下達との異世界蹂躙録 雪結晶 @kessho_yuki

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