(仮)アイツが勇者でぼくがモブ!?

@nijikawasatori

第1話 良くない出会い

 夜21:30、塾の帰り。進学校の学生の僕は学校はもちろん放課後の塾でも勉強をする。朝9時から夜の21時まで、平日も土日も。

 これが労働ならば高所得も夢じゃないのに…と思う時期はとうに過ぎた。受験も間近で、余計なことに脳のリソースは割くべきじゃない。きっとそうだ。


「今週もがんばったなあ。ラーメンでも食べて帰るか?」

 右隣りの友人が僕を誘う。彼の名前はミハラ。仲は良い。

「俺は賛成だけど…」

 左隣にいたオカウチが返事をする。仲は良い。


 なぜ言い淀んでこちらを向いているかと言うと、僕の家庭事情を知ってるからだ。スパルタって程ではないが、両親共に"お堅い"仕事のこともあり門限に厳しい。部屋でこっそりお笑い芸人のラジオを聴きながら受験勉強をしていると、怒られた。お笑いに厳しい、という意味ではなく『真面目に勉強をしている』風に見えなかったらしい。


「僕は今回パス。早めにお風呂入って、今日の復習しときたいんだ」


 嘘でもないが本音でもない言い訳をし、彼らと交差点で別れる。いつものことだからね。


 "この先建設中"

 歩いているとあまり見かけない立て看板があった。

 工事中なら見覚えもあるのだけれど…こういうのもあるのか。

 回り道をさせられる前に別の道を通って帰るか。

 ビルとビルの細い路地を選び、隣りの道路へ抜けようとする。通ったことはないが、まあ逆の道路へ出る方はないだろう。


 路地の先には薄暗い空き地が広がっていて…



 ドサッ

    ガタン



 人が倒れていた。血まみれで。

 その脇に一人、全身黒のライダースーツを着た、細身の男が立っている。たぶん返り血まみれで。



 やばいやばいやばいやばい…

 殺人現場だ!どうする、どうする…


 驚きのあまり声も出ない。尻もちをついて、動けもしない。

 進学校にいたって、こんな状況の対処法なんて習わないから。



「逆効果だったか…ウッカリだ」


 細身の男が小さな声でつぶやく。


 落ち着き過ぎている…慣れているのか?人を殺すことに。このご時世にまさか


「殺し屋か?」


 思わず口に出てしまった。非現実な状況で、頭の中か口に出してるのかもわからない。

 しかし落ち着く間もなく、ゆっくりと殺し屋が歩いて近づいてくる。

 仕方ないな、とまた小さく呟きながら。

 手足は竦んだまま身動きが出来ない。死人に口無し。

 目撃者の僕もこのまま殺されるんだ…


 怖い怖い嫌だ嫌だあああ!!



 ガランガランッ!!!



 大きな音が響き、

『この世界の僕』は終わった。

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