第2話 そこに壁あるんだ?

目が覚める。というより意識を取り戻すと見たことのない景色が広がっていた。辺り一面が陽の光のみで構成されている。しかし目が痛くなる様な、眩しさを感じない不思議な空間。目は開いている。体の感覚もある。寝そべった姿勢ではあるが"床"の感触はない。


「…死後の世界ってこと?」


声も出ることを確認しつつ、口に出すことでより落ち着きを取り戻そうとする。

そうだ、見知らぬ人が(たぶん)死んでいて…逃げようとしたけど体が動かなくて…殺し屋が近寄ってきて…僕を…?



「目が覚めたかな?立ち上がるんじゃ。」


ビクッ!

体が震えるほど驚いた、見知らぬ声が聞こえたのだから。寝そべった姿勢では死角が多い。誰かが近くにいるのか?

もし本当に死後の世界なら神様とか天使とか…エンマ様だろうか。


「怖がることはない、こちらへ来るんじゃ」


勇気を出し声がする方を見ると


神様っぽい。いかにもな白い装束に、先端がゆるく渦巻きの木の杖を持っている。


「ワシは神じゃ」


本当だった。


「あー、よいぞよいぞ。今から順を追って説明する。賢いそなたならすぐ理解してくれるはずじゃ。落ち着いて聞いて欲しい。」


どうやら心を読んでるとまではないだろうが、僕の考えはお見通しだった。色んなことを考えて混乱状態なのだけど、今はどのみち話を聞くしかない。毎日10数時間、人の話を聞いてる生活だ。聞くことには慣れている。落ち着いて聞いてみよう。僕は賢いからね。


「まず、そなたは元の世界では死んでしまったのじゃ。そしてここはいわゆる"あの世"と呼べる場所じゃ。しかし、そなたは…死ぬ運命では無かったのじゃ」


うん?

途中までは想定内だったけど、最後の死ぬ運命じゃなかったっていうのはどういうことだろう?


「結論から言おう。元の世界へ戻ることは今は出来ぬ。そなたらの世界で言う『輪廻転生』の輪から外れてしまったのじゃ。」


「徳を積んだり善い行いをすると人間になれるだとか、解脱して仏様になるとかそういうやつでしょうか?」

だとしたら僕は仏様になるのだろうか。世の中には特に貢献してきたと言えるほどの人間ではないけども。


「そうじゃ。だが、仏様になるのとも違う。そなたは…異世界に転生するのじゃ。」


異世界?昔読んだ漫画やゲームみたいな、別の世界に…転生。


「そなた達がいた世界とはまったく違う、そう…

剣と魔法のファンタジーじゃ!!!」


…ソシャゲの安いキャッチコピーみたいなことを突きつけられた。

受け入れるしか、ないのか。駄々をこねて元の世界に返してくれ!と喚いても、どうにもならないのだ。もし出来るのなら戻されているはずだしね。

しかし…


「死ぬ運命ではなかった、と仰ってましたがどういうことでしょう?」


そうまだ肝心の理由を聞いていない。運命通りならば輪廻転生から外れず元の世界へ戻されるのであればなぜ僕はここにいるのか?


「うむ…それはな、そこにいる黒ライダースーツの男。リューセイだけが死ぬ運命だったのだが、そなたが巻き込まれてしまったのじゃ…」


後ろを振り返ると、腕組みをしうつむいたまま壁に寄りかかっている

あの殺し屋がいた。


っていうか、そこに壁あるんだ?

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