第4話 最後のねがい
神様が言うには、僕は「商人」という職業で転生しなければならないらしい。そして転生者は現地の人々と違い、転職は不可能なんだとか。
代わりにといっては難だが、魔法の適性だけは全属性にしてもらえるとのこと。通常は2種類の属性でも珍しく、3種類にもなると歴史上にも数える程度。
つまるところ、優遇はしてもらえるものの、ただの商人には不釣り合いで悪目立ちをする予感もするので人前では2種類以上は扱わないようにした方が身のためだと教えてくれた。
…これは優遇なのだろうか?
勇者は特別なため『闇』と『火』以外の4種類。行いはなににしろ、歴史に名を残すことは始めから決まりきった人生なのだろう。
それよりも…
「神様、どうしてコイツなんかが勇者として転生するんです?ろくでもないことしてきたでしょうし、許されることなんか…」
視界の端にいた殺し屋リューセイ。殺し屋のくせに。
悪い行いをした人は地獄に行くんじゃないのかよ。
罪滅ぼしとして、人助けの命運を背負っていくのだろうか。
「うむ。そなたの言うことも間違ってはおらん。しかし、"勇者"たるものとして制限があるのじゃ。
無闇に人間を殺められない、
悪意のある行動をとれない。
そしてお供になるそなたから大きく離れられない。」
僕に危害はない、と。逆に言うと僕もリューセイから離れられない。危害はないけど、自由はそんなにもない。だからこそ神様からのせめてもの配慮があったのだろう。確認はしないが、万が一に身の危険があれば魔法でリューセイを退けられる。
元の世界には戻れない。
転生はしなければいけない。
勇者とそのお供として生きていかねばならない。
受け入れるしかない、他の選択肢はない。
なにか、何か一つ納得するための理由が欲しい。希望がなければ、生きていくことなんて辛すぎるからだ。
別に元の世界にいた時だって、大それた目標や夢があったわけじゃない。
親が厳しくて、なんとなくいい大学に行けるようになっておく。仕事にも就いて、暮らして行くんだなと漠然な気持ちを持っているだけ。それでも友達がいたり、好きな女の子を目で追ってみたり、美味しいものを食べたりして積み重ねている"今"が愛おしかったのだと、改めて思う。
異世界に放り出され、見知らぬ殺し屋と常に顔を合わせ続ける人生に何を見出せばいいのだろうか。
「僕に危害はないのは分かりましたよ神様。でもメリットが無さすぎます。勇者の運命はきっと悪者を成敗しに旅立つのでしょうけど、ただそれを見届けるだけの人生っていうのは
「元の世界へ戻れる!そして身につけた魔法やスキルはそのままに!じゃ!」
馬鹿なフリをして最後の駄々をこねてみると、お見通しだったのか僕の言葉を遮るように神様は告げた。これまでの囁くような声ではなく、強い口調で。
語尾の"じゃ"をつけ忘れてたけど、癖とかじゃなくて意図的につけてたのか…。
(仮)アイツが勇者でぼくがモブ!? @nijikawasatori
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