短編『鏡と現』

@MizusakiYukine

掌編版

鏡と現


 俺が通う学校には、他では聞かない怪談がある。

『雨の降る昼休みに、屋上の扉の脇にある鏡に映る自分と目を合わせながら三度手を叩き、扉を開くと異世界に行ける』というものだ。

 この話を聞いたのはつい昨日の話なのだが、今日になって早速雨が降ってくれたのは都合が良かった。

 俺は北校舎の屋上への階段を登り、鏡の前に立つ。そしてルールに則って手順をこなし、扉を開いた。

 扉の向こうは屋上だ。異世界に行く方法と聞いて、全く別の場所に繋がるのを期待していたが、どうやらそうではないらしい。

 色々と調べてみたかったが雨の中傘も無しに屋上に出る気にはなれなかった。


「……戻るか」


 やはりガセだったかと結論づけ、教室に戻ろうと階段を降りると、窓の外に違和感を感じた。北校舎の廊下は校舎内の南側にある。当然廊下の窓からは南校舎が見えるはずだが、ここからは見えない。

 間違えて南校舎に来てしまったかと階段の方を見返すと『北4』と書いてあるのが見えた。

 寒気がした。何か恐ろしいことが起きている気がしてならない。

 俺は教室まで走った。ドアを勢いよく開けて中に入る。かなり大きな音がしたはずだが、こちらを見る人は誰もいない。

 教室の窓際、俺の席を囲んで談笑している二人組。二人は俺の席に目線を向けながら、『三人で』話している。

 手鏡を使い俺の席を見た。そこに映る『俺』は鏡越しに俺を見つめ……。


「ありがとう」


 とつぶやいた。

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