24 キリコ 異世界でドッジボールを流行らせる ④





 なんだかんだで、はじまりましたよ、ドッジボール大会。会場は闘技場。周りを階段状の座席でグルッと囲まれたスタジアムみたいなことろ。




 正面の貴賓席には、領主様ご家族が座られた。隣の席にはお付きの人がいる。きっと護衛も兼ねているんだろうね、だってあの人、遠くから見ても筋肉すごいもの!フードをかぶっているから顔はよくわからないんだけど、ちらっと見えたのは青い瞳。ん~、何か既視感?まいっか。今は試合に集中しなくっちゃ。




 エントリーは16チーム。応募者が殺到したため、事前に地区ごとに予選が行われた。うちのチームもちゃんと勝ち上がったんだよ、へへっ。ドッジボール歴?は一番長いからね。よかった!だって一応町の代表だからね。





 最初は2試合同時に行い、8チームなったところから1試合ずつ行う形式。スタンドは飲食OK!お師匠さんたちも昨日作った摘まめるお菓子と飲み物を持参。私たちも試合の合間にお菓子をつまむ。あと手作りのスポドリも。モグモグタイムは大事!体を動かしたら、エネルギーチャージしないとね!この話したら、なぜかライが食いついた。スポドリにも興味津々。バナナやおにぎりエネルギー変換がはやいってことくらいしか知らないよ?




「「「「「「「エネルギーって何?」」」」」」」




 はい、でました、このパターン。エネルギー?ようわからんわ、中学生だし。〝体を動かす力〟みたいな?お腹がすき過ぎると動けなくなるでしょ?と言ったらなんとなく伝わったみたい。スポドリは汗をかくと体の塩分が失われることや砂糖を入れると吸収がよくなること、レモンは飲みやすくするためと説明しておいた。こっちはアイザックさんが食いつき、後で作り方を教えると約束した。



 


無事8強に残りました。準々決勝ってやつですね。ここからは1試合ずつなので、ちょっと休める。カプリス君のチームも勝ち残り。勝ち残れば決勝で当たる。が、あっちにはあいつらがいるのです。さっきのガラの悪いやつら〝ブラックエンペラー〟



試合見ていたら、わざと顔とかに当てるんです。ワンバウンドで!審判の玉も反応しません。だってルール違反じゃないから。今後はお師匠さんに改良してもらうとして、今回は悔しいけどこのままです。ワンバウンドで何度もぶつけて、弱ってきたところを思い切りぶつけて、ゲラゲラ笑っている。なんとも嫌な感じです。



途中、大会委員から注意を受けますが、わざとではないと言い張っています。観客からもブーイング!みているほうも楽しくな~い。弱い者いじめして楽しんでいる感じがほんとに頭にくる。




けが人は救護のところですぐに治してくれるけど、痛さは忘れないよね。子供だったらトラウマになっちゃう!正々堂々、全力を出し切って戦うのがスポーツです!思わず、手を強く握りこむ。




誰かが私の手を優しく包み込む。




「だめよ。手が痛くなっちゃうわよ」




 ナナさんだ。私はハッとして力を抜く。




「あいつらは優勝できんさ。クロミエチーム(カプリス君のことろ)も強いし、万が一決勝まできても、わしらが止める。そうじゃろ?」




 クワルク親方が言った。みんながそれに強く頷く。そうだ、まだ、これからだ。まずは目の前の敵を倒していこう。正々堂々と!






 私たちは決意も新たに、燃えて、燃えて、燃えまくった結果、決勝に残った。あとはクロミエチームかブラックエンペラーの勝ったほうと勝負だ。私たちは選手が座るベンチ席で試合の行方を見守る。




 ブラックエンペラー最初からは卑怯な手を使ってきた。開始と同時に今日バウンドで女性や子供を狙って強バウンド!何度も集中して狙うので、カプリス君たち男性陣は守りに徹し、攻撃に集中できない。足がもつれた女性が倒れこんだところを狙われ、かばうカプリス君。だが、相手の狙ったのは女性ではなくカプリス君だった。今度はワンバウンドではなく、直接顔面を狙って!カプリス君は振り返ったところだったから、避けられず、もろに直撃!



 会場から悲鳴があがる!





「カプリス君!」




 カプリス君の顔が血だらけだ。メガネが割れている。目は?目は大丈夫なの?




 笛が鳴って、試合は一旦停止。カプリス君にわざと当てた男は失格になったが、想定内だったらしく、あいつらはニヤニヤしている。




「キリコちゃん・・・」




 ナナさんにハンカチを差し出される。気づくと私は涙をポロポロ流していた。するとコート内にお師匠さんの姿が。お師匠さんが無詠唱でカプリス君の顔に手を当てると、割れたメガネまでが元通りに。お師匠さんは私のほうを見て頷いた。よかった!カプリス君、大丈夫だ。だってお師匠さんが治してくれたから。




 会場にブリアさんの声が流れる。たとえ、ルールを守っていても、相手チームを大怪我させた場合は失格になると告げる。「きたねぇ~ぞ!」とか叫んでいたけど、汚いのはお前らだっつうの!




 カプリス君は念のため、退場し、7対7のまま試合は続行。が、カプリス君が大けがした場面を見たことでショックを受けたメンバーの顔色が悪すぎた。クロミエチームのリーダーが申し入れをし、ブラックエンペラーの不戦勝となった。





 ここでちょっと休憩に。私はお師匠さんやジョージーさんやオーカヨーさんに抱きしめてもらって、復活。顔を洗いに行っている間に作戦会議がはじまっていた。




 ドッジボールの試合は5分。コートチェンジしてもう5分。だが、双方が納得すれば、準決勝からは全員倒れるまでやることができる・・・というルールにしたんだよね。まぁ、最大30分までだけどね。公式戦でない場合はそれでやっているところが多いみたい。だって決着つけたい人もいるよね。



 今回これを申し出るつもり、嗜虐趣味のあるあいつらなら絶対OKするはず。渋ったら挑発してやればいい。あいつら単純だからのってくるはず。




 作戦は単純。大人たちは普通に戦うけど、子供達は逃げに徹する。バウンドボールのよけ方はジョージーさんから伝授される。当たらないコツってやつね。さすが英雄軍師様。あとは私たちの体力次第。キンジーも私も走り回っているから、結構持久力あるんだよね。相手を疲れさせる作戦です。あとは、当てるのがうまいイーシーとライが最初は外野で、最後に内野に戻って相手を倒す。




 さぁ、決勝戦!カプリス君の敵討ちだ!私たちは円陣を組んで心を一つにした。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

キリコとお師匠さん 猫沢さん @neko-zawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ