23 キリコ 異世界でドッジボールを流行らせる ③
パンパカパーン!青空が広がり、スポーツやるにはもってこい。
今日は待ちに待ったゾーラ領ドッジボール大会。12月に入ったので結構寒いけど、私たちにはジャージがある。お師匠さんたちとのチーム用のジャージはライトグレーに袖やズボンのわきにピンクのラインが入っているんだけど、マンベール代表チームのものは、黒。背中に日本語で〝十人十色〟と白い文字がかかれている。
太い筆でかいた文字をお師匠さんが転写してくれました。お師匠さんたちとのチーム名は〝猫と竜〟背中にはエメラルドグリーンの猫と竜が描かれていて、漢字で〝猫と竜〟とかかれている。私、小学生の頃、ちょっとだけ書道を習っていたのですよ。ちょっとだけね。だからあんまりうまくないんだけど、みなさん、〝日本語〟というか書道で書いた漢字にはまってしまったわけです。
別々の紙にかいた絵と文字をうまく配置して〇で囲むようなレイアウトにしてくれたのはジョージーさん。素敵な感じに仕上がりました。
マオさんは〝職人〟と背中にかかれたジャージの上着も作り、毎日着て仕事に行っている。それを見たクワルク親方が羨ましがって相談に来た。〝炎の職人〟〝鍛冶師〟〝天下一品〟〝炎魂〟など思いつくものを書いて渡してあるが、まだ悩んでいるらしい。まぁ、決まったら教えてくださいね。
会場の近くはマリンカラーの旗やお花で飾られていて、お祭りムード。屋台もあちこちで準備している。楽しそう!大会が終わったら、お師匠さんと見て回るんだ!
エントリーするため、受付へ行くと大会委員長のブリアさんがいた。ブリアさんたち大会委員はお揃いのマリンブルーのジャージを着ている。胸のところに竜の横顔がプリントされていて、背中には〝ドッジボール大会委員〟と円を描くように書かれ、真ん中にボールが描いてある。はい、欠かされました。うっかり〝スタッフTシャツ〟の話なんかしちゃったんです。トホホ・・・。
今回の大会は50人くらいの人が運営にかかわっているので、ジャージを着ていると一目でわかっていいんだけどね。
大変だったのは服飾関係の人たち。まずは布の確保。布を織る工場みたいなのがすでにあったので、そこは安心。手織りじゃ、織る人たちが倒れちゃう!
それから、ジャージを縫うお針子さんを急募して増やした。布をカットして渡せば、子育て中のお母さんでも家の中で縫えるものね。手縫いのスキルを持っている人は、隙間時間でもあっという間に縫えちゃうんだって。すごい!そして助かる!
問題はエフェル羊。牧羊できる場所の確保、力仕事のできる人の確保、そのあたりは商業ギルドが協力してくれたらしい。だって、絶対売れるよ、このジャージ。ブリアさんもオレロさんも目が血走っていたよ。こわっ!
今後エフェル羊を牧羊で増やしていく予定なんだけど、今回は間に合わないので、冒険者ギルドへ依頼を出し、野生のエフェル羊を大量に捕まえてきてくれたんだって。毛を傷つけちゃいけないから、テイマーさんたちが一旦契約して、毛を刈らせてもらい、解放したらしい。結構気が荒い羊なので、力づくで従えようとすると、毛が傷ついちゃうのだそうだ。ほんと、ご協力ありがとうございました。
ヒーターさんのところでも、従業員の人たちがみんなジャージを着ている。特に女の人たちが喜んでいる。長いスカートじゃ、動きにくいもんね。牛の世話や掃除、重労働なのだ。ヒーターさんのところでは、牛に美味しいミルクを出してもらうため、大事に牛たちを世話している。乳製品づくりも手を抜かない。自分たちの仕事に誇りを持っているって感じ。
まだ駆け出しだけど、私も自分の仕事に誇りを持てるようになりたいと思っている。いつかきっと。
「あら、ジュニン・トイーロ。エントリーしにきたのね」
気がついたブリアさんが声をかけてくれた。ブリアさんの腰にはベルトポーチが。目の下にはクマもあって、お疲れのようだけど、活き活きしている。
「はい。よろしくお願いします」
なぜか、代表者になってしまった私はエントリー表のメンバーを確認し、サインする。こっちの字はまだあんまり得意じゃないんだけど、何とか読めるでしょう。サインすると、エントリー完了の札をもらう。小さいので、ベルトポーチにしまう。
私たちのほかにもエントリーする人たちが次々とやってきた。みんなお揃いの布を頭や腕や腰に巻いている。同じチームだとわかるものを身に着けてと大会規約につけたので、誰がどこのチームかわかりやすい。うちのチームはジャージだから、めっちゃ目立つ。ちょっと恥ずかしい。
「キリコ!」
振り返ると遠くから手を振る人が・・・。
「あ、カプリス君・・・?ん、バラカ親方もいる?」
「ああ、クロミエ代表チームよ。」
そうだった。個人で参加のチームのほかに各町でも代表を出す。
「カプリス君、久しぶり」
「ああ、久しぶり。ずいぶんはやいな」
「うん、昨日はお師匠さんたちと近くに泊ったんだ」
そう、前泊しようと思ったらすでに宿は一杯。そこへ、領主様からお誘いが・・・。
行きましたよ、領主館。お弁当も作るので、別館の離れに泊めていただきました。最初、別館っていわれたんだけど、大きくて豪華すぎた。100人くらい泊めれるんじゃない?ちょっと離れたお庭の中にちんまりしたお家があって、中に台所もあったので、そちらにしていただいた。
こっちだって、20人くらい泊まれるくらい大きいんだけどね。警備が・・・とか言われたけど、お師匠さんたちに鼻で笑われた。
だよね~、お師匠さんたちがいれば怖いものなし!う~ん、貴族のライがいるからかもしれないけど、ライもこっちがいいって言ってくれたので、離れに決まりました。
部屋決めをして、荷物を置いたら、領主様とのご対面。
すっごく緊張したんだけど、会ってみたら優しいおじさまでした。背が高くてがっしりした感じ。顎髭がカッコいいかたちに整えてあった。お師匠さんたちとは面識があったみたい。
最後まで緊張してカチコチだったのは、親方たち・・・。キンジーやイーシーも固まっていた。まぁ、そんなもんか。こっちじゃ貴族がいるのがあたりまえだものね。
貴族のいない世界からきた私は貴族と平民、どっちも同じ人間じゃんって思えるけどこっちでは違うんだろうなぁ。
「へぇ~、よくとれたな」
何も知らないカプリス君は驚いていた。うん、まぁね。そこは言葉を濁しておいた。
今日のカプリス君は上生成りのシャツに濃茶のズボン。胸のところに海の女神さまレーラ様のエンブレムがついた濃紺のジャケットを着ている。へぇ~、私服っぽくって似合っている。制服もいいけどねって何考えているの、私!
「カプリス君のチームはジャケットを揃えたんだね」
「そうなんだ。港の人たちが張り切って、お金を集めて作ってくれたんだ」
そりゃそうだ。自分たちの町で開催される大会。優勝してほしいって思うよね。わかるよ~その気持ち。
「すごく似合っている。いいセンスだね!」
「そ、そうかな。ありがとう。キリコたちは・・・噂のジャージだろ?動きやすそうだな」
「うん!これ、運動するために作られたものだから」
「そ、そうか・・・その・・似合っている」
「あ、ありがとう」
ちょっと、カプリス君!顔が赤くなっちゃうじゃん!やめてよ!
「おお、おお!おぼっちゃん、お嬢ちゃんは遊びで参加か」
馬鹿にしたような野太い声がしました。黒のつなぎのような服を着ている大男が立っていた。つなぎの胸のところには骸骨が冠をかぶった趣味の悪いエンブレムがついている。そして、頭は・・・・モヒカン?赤く染めているし、なぜか両袖が肩のところで切れてボロボロ!
「・・・かわいそ!冬なのに着るものがないなんて!」
あれ?みんな、どうしたの?口を押えて体を震わせて・・・。
「ち、ちげぇ~よ!金ならある!その証拠にお揃いだ!」
ププッ!お揃いだって?言い方が可愛いんですけど。確かに人相の悪いメンバーがきているのはお揃いのつなぎだ。あれ?子供は?あ、あの子かな?確かに顔は幼いけど、背、高っか!女の人も化粧が濃くってきつい顔。ごろつき集団?
「じゃあ、どうして?」
「俺様の美しい筋肉を見せるために決まっているだろ!」
男が唾をとばしながら、叫んだ。汚いなぁ~もう。私は大きくため息をつくと首を左右に振った。
「・・・わかってないなぁ~。本物の筋肉マッチョは服を着ていてもわかるものなのだよ」
「へっ?」
「いい?そんなの、クワルク親方やバラカ親方のところの若い衆にくらべたら、普通だよ?服の上からでも筋肉ムキムキなのがわかるのがほんとのマッチョよ」
「・・・キリコはマッチョが好きなのか・・・」
ん?カプリス君?なんで落ち込んでいるの?
「いや、私は細マッチョがいいです」
「そ、そうか!」
あれ?笑顔になった?情緒不安定なお年頃なのかしら?
「確かに・・・。わざわざ脱いで見せる必要はないな。私のちちう、いや父は服を着ていても筋肉だるまなのがまるわかりだぞ?思うに、もっと体にピッタリなのをあつらえたらどうだ?そのほうが自慢の筋肉とやらが目立つぞ?」
お、ライ、ナイスアドバイス!へぇ~、ライの父上はいい筋肉しているんだね。会ってみたいな。無理だろうけど。
男は顔を真っ赤にして今にもライに殴りかかりそう。それに対して、ライはニヤニヤしながら構えもしない。アイザックさんのほうが殺気立った顔で構えている。
「暴力事件起こしたら、参加取り消しだからね」
ブリアさんの圧のある笑顔に、男たちの殺気は一瞬で消滅した。
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