22 キリコ 異世界でドッジボールを流行らせる ②



 というわけでエントリーするには人数が足りないうちのチーム。だが、心配ご無用!イーシーの友達がメンバーになってくれました。




1人はマンベールにある孤児院のキンジーくん。ミズラフの森で木の実や果実を探しに来て、オーカヨーさん一家と出会ったんだって。




実際は魔物に襲われて危ないところを助けてもらったとか。1人で危険な森に入ったことをオーカヨーさんにこっぴどく叱られたらしいけど、孤児院のチビたちに美味しいものを食べさせたかったと訳を話すとあっさり許された。腕試しとか言ったら、マオさんにも怒られていたかもね。それから時々イーシーは孤児院に遊びに行くようになって、優しいイーシーは小さい子たちからも〝お兄ちゃん〟って慕われている。すっかり仲良しになった2人だけど、イーシーは10月から魔法学園に通うことになったので、最近は週末一緒にドッジボールをするだけだ。




オーカヨーさんもマオさんもまだ行かなくてもいいって止めたんだけど、イーシーは魔法学園に行くと決めた。魔法学園で勉強して、みんなの生活に役立つ魔法や魔道具を作りたいんだってさ。ほんと、いい子だよね~。




魔法学園は基本寮生活なんだけど、週末や長い休暇には帰宅してもよいことになっている。といってもマンベールから王都までは馬車で9日くらい。毎週末に帰るのは無理・・・なんだけど、オーカヨーさんが作った魔法陣を付与したペンダントで、一瞬で帰ることが可能になった。オーカヨーさんもマオさんもイーシーが可愛くて仕方がない。いないと寂しくてたまらないと毎週かえって来ることを条件に送り出した。このペンダント、買ったらすごい高いと知って、イーシーは尻込みしていたけれど、これはイーシーの安全でもあると聞いて納得した。




学園では放課後、届けさえ出せば、町へ外出することもできる。魔法学園の子は魔力が高いので、狙われることもあるという。外出しなければよいという話だが、授業で使う道具などを買いに行くこともあるし、町で色々なものをみることも勉強なので、学園からは防犯ベルのようなものを持たされる。

オーカヨーさんはそれだけでは心配なので、外出の時はペンダントを必ず身に着けておくようにイーシーに約束させた。これさえあれば、攫われそうになっても一瞬で家へ帰って来られる。




ある日、イーシーが同じ学園の男の子と一緒に家へ転移してきた。平日なので、何かがあったということだ。家にいたオーカヨーさんは2人を座らせるとミルクを飲ませて、落ち着かせる。




名前はライ。イーシーと同じ時に学園に転入した縁で仲良くなり、2人で王都の町を歩いていたら、ライが攫われそうになったので、転移して逃げてきたという。




話を聞き終わった頃、マオさんが帰ってくる。オーカヨーさんから、手紙鳥で知らせを受けてすぐに転移してきた。



(マオさんもオーカヨーさんもお揃いの転移用ペンダントをもっています)




マオさんはライをみて、何かを感じたようだったとイーシーが言っていた。




オーカヨーさんは大きなため息をつくと、ライは貴族の子でたぶん護衛がついていただろうから、家の人が心配している。オーカヨーさんが親御さんのところへ連れて行って説明してくると言って、ライだけを連れて行った。




魔力には色のようなものがあり、血縁者はそれが似ている。ライの両親にはマオさんもオーカヨーさんも会ったことがあるので、ライの魔力が似ていることから親族とわかったのだと。




イーシーは真っ青になる。もしかしたら、ライは貴族ではないかと思っていた。いつもボサボサの頭で、部屋での服装も平民の者だけど、どことなく高貴な感じがしていたあい、学園に通うほかの貴族の子と似たような口調で話すことがあるからだ。平民のふりをしているのには何か事情があるはずだと思って黙っていた。





家にいきなり連れてきたことで、攫ったことになったらどうしよう。マオさんオーカヨーさんに迷惑を掛けたらどうしようと思った。けれど、マオさんは大丈夫と言った。オーカヨーさんがちゃんと説明してくると。話の分かる親だから心配ないと。




しばらくして、オーカヨーさんが帰ってきた。イーシーは抱き着いて謝った。





「あら、大丈夫よ。心配しないで、むしろ感謝されたわ」




護衛のいた場所は少し離れていたから、あのままなら危害を加えられていたこと、ライがイーシーは悪くないと必死で訴えてくれたことをオーカヨーさんは話してくれた。




親御さんはライに友達ができたことを喜び、今後もよろしく頼むとのことだった。





もう一人のメンバーがこの子、ライくん。茶色いぼさぼさの髪で黒ぶちのメガネをしている。貴族とわからないように変装しているんだってさ。お父さんから平民の生活を知るように言われて平民のふりして学園に来たんだって。何かいい感じのご両親だね。




ご両親から許可が出たので、毎週末イーシーと一緒にマンベールに来ている。年上の従弟と称して、護衛のアイザックさんが一緒に転移してくることが条件なので、アイザックさんが他の仕事で来られない時は残念そうに見送っているとか。




今ではアイザックさんも一緒にドッジボールをしている。ルールを知っていたから「なんで」って思ったら、王都では騎士たちの間でドッジボールをやる人が増えているそうだ。あ~、ソノーエさんが王宮騎士団とやっているって言っていたものね。




魔法学園でもドッジボールが流行っているんだって。最初は平民の生徒だけでやっていたんだけど、あまりにも楽しそうで我慢できず、参加するようになったらしい。好きな子は自宅でもお屋敷の人たちと楽しんでいるらしい。あ~、貴族の邸宅ってお庭とかも広そうだものね。




最初はお坊ちゃまのお付き合いでドッジボールをはじめた私設騎士団の人たちも、今では自分たちがはまっちゃっているらしい。




というわけでキンジーくん、ライくんがメンバーに加わり、エントリー。




こうして無事、異世界初のドッジボール大会がマンベールで行われました。




結果、うちのチームは、3位。準決勝までは何とか行けたんだけど、ほかのチームがとにかく強かった!毎日やっているし、ボールを投げたり、キャッチしたりする練習しているチームもいて強かった。



『仕事大丈夫なの?』って思ったけど、ドッジボールを楽しみに頑張れるし、お昼にやることでいい気分転換になって午後の仕事の効率があがったと聞いてホッとした。





楽しいのはいいけど、仕事に差し支えちゃあダメだよね。




魔法学園でも最初のうちは、ドッジボールに夢中になって宿題忘れたり、勉強しなくなったりする子が増えて問題になったけど、勉強さぼった子はドッジボール禁止令が出され、みんな必死で勉強するようになった。おかげで学園全体の学力があがったとか。うん、よかったね、色々。




うちのチームは別にてっぺん目指しているわけじゃないから、今のままのペースでかまわない。仕事のペースが落ち着いたとはいってもお師匠さんは売れっ子だからね。私もドッジボールはあくまで趣味。ほんとにやりたいのは可愛い革細工を作ること。





マンベールだけでなく、クロミエやリームチでも定期的にドッジボール大会が開催され、毎回結構な額のお金が入るためブリアさんは笑いが止まらないらしい。




領主様もドッジボールを知ることになり、ブリアさんに連絡が入った。今度はゾーラ領大会が開かれることになった。場所はお隣クロミエ(領都)だけど、港からは離れている内陸のほうだ。領主様のお屋敷の近くで、港からは馬車で2時間。そして、なんと賞金は大金貨10枚(日本円で100万円)だ!




こうなってくるとちょっと心配なのが賞金目当てに悪いことを考える人たち。今も領以外からの参加者でわざと顔を狙ったり、お腹に思い切り強い球を当てたりする質の悪い冒険者チームもいて問題になっているらしい。




今回はそのあたりを厳しく取り締まることになった。意図せず当てたのか、悪意を持って当てたのか、本人が認めなければ反則と決めつけることは難しく、公平を期すために〝真理の玉〟なる魔導具をお師匠さんがサクッと作成。これを審判代わりにおく。しゃべってジャッジしてくれるんだって。ボールが当たったかどうかもめた時もその様子を映し出してくれるので、みんな納得。まぁ、普段は自己申告で、やっているけど、高額賞金がかかるとわからないものね。





あくまでみんなでワイワイ楽しむために全力を尽くす。それが大会の意義だ。チームは幅広い年齢層や男女が入ることを条件とした。賞金うちわけは優勝チームに大金貨3枚、大会をもっとも盛り上げたチームに大金貨7枚となった。まぁ、優勝チームがどちらも手にするんだろうけどね。




強さを競う戦いではないということでマンベール代表チームも作られた。私、イーシー、キンジー、ライ、クワルク親方、弟子で息子のルークさん(イケメンで親方と似ていないから親子とは知らなかったよ)ヒーターさんのところからはナナさん、マスルさんでチームを組んだ。




クロミエの奥まで行くと片道5時間。時間的に同じ職場から全員がでることは難しいからと混合チームを作った。お師匠さんたちは大きな大会だと目立つから出ないそうです。オーカヨーさん夫婦もジョージーさんも同じ理由。応援には来てくれるそうです。美味しいお弁当をいっぱい作ってくれるそうです。やったー!楽しみ!





チーム名は〝十人十色〟人それぞれ違うけど、それでいいんじゃないって言う意味。こっちの人が言うと「ジュニン トイーロ」何か人の名前みたいになっちゃうけど、みんながいいって言ってくれたからいいんだもん。




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