21 キリコ 異世界でドッジボールを流行らせる ①
お師匠さんとの旅行から2か月がたち、だいぶ寒くなってきた。マンベールではあまり雪が多くないらしいけれど、やはり冬は寒いらしい。
体を温めるには、運動が一番!でも楽しくないとね!
旅行の時に私が話したドッジボールにお師匠さんたちが興味を示し、ドッジボール用のボールが開発された。最初は皮のボールの中に綿だけ詰めたんだけど、弾まないんだよね、これが・・・で、中に風魔法で空気?を入れてみたらいい感じになった。
最初はお師匠さん、ジョージーさん、オーカヨーさん家族、ソノーエさんと私でやっていたんだけれど、人数が足りないから円形ドッジボールにしかならない。そこでマオさんが友達のヒーターさん兄弟やクワルク親方のお弟子さんたちを誘ってくれた。それでも足りず、なんとヒーターさん一家、クワルク親方までも参加してくれた。
おかげで1チーム8人くらいがちょうどよいとわかる。こちらの人は体格がいいから、人数多すぎると動きにくいし、かといってコートを広くし過ぎるとつまらないしね。
意外だったのは、人数確保のためだけに来てくれた人たちが、今ではすっかりはまってしまったこと。
クワルク親方なんか敷地内の一部にコートをかいて、仕事の切れ間に気分転換と称してお弟子さんたちと楽しんでいるとか。12人しかいないからコートをちょっと小さくかいて6対6でやっていているとか。うん、いいよね、その辺は人数に合わせて楽しめばいい。
でも、線を引くのが面倒というので、お師匠さんが開発しました!長さ1m直径10cmのぶっといラインマーカーを。魔法陣を書いたりするのに使う液体が入っていて、どこにでも簡単に書けて、足で踏んでも消えない。水をかけると簡単に消えるので、重宝されていて、クワルク親方にも喜ばれた。おかげで、親方のところだけじゃなく、職場に空いた場所がある人たちは、仕事前とか昼休みを利用して楽しんでいるらしい。口コミなの?流行るのが早くない?
お師匠さんがいうには、あんまり娯楽がないから、楽しいことがあるとあっという間に広まるんだってさ。なるほど!
えっ?ヒーターさんちも、家族みんなでやっているの?へぇ~、楽しそう!
ただ女の人も参加するようになると問題が出てくる。この世界の女性は丈の長いスカートやワンピースが主流だ。スカートが絡まって動きにくいらしい。あ~、そうだよね。やっぱりジャージが・・・とつぶやいてしまった私。さっそく『ジャージって何だい?』がはじまり、説明する羽目に・・・。
そしたらあったんですよ、伸びる布が!〝エッフェル羊〟という細くて絡みやすい毛の羊がいるんだけれど、この羊の毛を使って織ったのがエッフェル布。主に保温性に優れ、主に冒険者たちが冬場のインナーとして利用しているとか!
そこでさっそく服飾ギルドへ行きました。ここ、ゾーラ領の領都はクロミエなので、ほとんどのギルドはクロミエにある。お師匠さんと2人で行って、見本のエッフェル布をみせてもらったけれど、かなり薄い。そしてちょっとチクチクする。う~ん、ジャージのほうはもう少し厚手で綿が入っていたような・・・とつぶやいたら、ゾーラ支部長のオレロさんの目がキラ~ンってなった。
お師匠さんがポーチから私のかいたジャージとTシャツの絵を取り出した。・・・あ、それ、とってあったんですね・・・お師匠さん・・・。遠い目をする私。
「だって、絵がないと説明できないだろう?」
その通りです、お師匠さん。気持ちを切り替えて、説明をする。
オレロさんは、エッフェル布に綿布を縫い合わせれば・・・いや、綿とエッフェルを混ぜ込んで布を織れば・・・と一人でブツブツ言っている。まかせておけば、ジャージっぽい布ができそうだね、よかった。
ジャージに関しては細かい部分も説明しておく。ズボンは腰の部分にひもを入れて、しばるとか、上着は真ん中で開いていて、ボタンをつけてとめるとか。この世界にファスナーは存在しないので、ジャージはボタンをつけてもらうことにしたんだぁ~。やっている時にヒラヒラすると邪魔で嫌なんだもん。あと、できればジャージは厚手にして欲しいことも伝える。
オレロさんは新しいアイデアを得て、すごくうれしそう!あ、この人もお師匠さんと同じだ。新しいものを作るときってワクワクするよね。私もちょっとだけわかる。ちょっとだけね。
せっかくクロミエに来たので、ファーメ亭でランチ!グフフフフ、またあの豪華なドリアが食べれる!
話し合いに思ったより時間がかかり、ランチにはちょっと遅めの時間だったので、お客さんはあんまりおらず、すんなり入れる。私たち以外のお客さんがいなくなるとクローズの札を出して、リドムさんとランさんも一緒にお昼を食べる。いつもなら、厨房で食べるらしいけど、今日は何か聞きたいことがあるんだって。
まずは食べてからということでアツアツをいただく。あ、今日のは、魚のほかにエビのフライものっている。あ、サービス?なんてこと!感激です!お師匠さんも私もガツガツとひたすら料理を食べる。あまりのおいしさに思わず「ムフッ♡」とか「んん~~♡」とか声が漏れるけどね!
リドムさんたちは私たちのそんな様子をうれしそうにみながら、自分たちも食べる。パンと余った魚のフライとスープだ。じーっと見ていたら、厨房からスープとフライの追加を持ってきてくれた。2人分。
こっちもめちゃくちゃ美味しかった!あ~、お腹いっぱいでし・あ・わ・せ♡
「ふぅ~、美味しかった!ごちそうさん!で、聞きたいことって何だい?」
「ああ、マンベールで流行っているドッジボールとかいうやつのことなんだが・・・」
お師匠さんと私は顔を見合われる。だって、まだ3週間くらいだよ?
「ヒーター牧場のチーズは、この町でも人気で、週1回うちにも届けてくれるんだが、その日は何だか急いでいたので、訳を聞いたら、昼にドッジボールをするから早く帰りたいというんだ」
いつもなら、帰りにファーメ亭でご飯を食べて帰るんだけど、その日は食べずに帰るというからリドムさんも驚いたそうだ。
「ボールっていう球を使ってコートをかいて遊ぶらしいが、よくわからなくってな」
そうだね、それだけじゃあ、わからないよね。
「じゃあ、やってみるかい?」
お師匠さんがポーチからボールを取り出すとリドムさんが「おおおぅ~!!」って声出したよ!
港のほうには船大工のバラカ親方の船ドックがあり、近くに空いている場所があるというので、そこへ行くことに。リドムさんは魔法の手紙鳥でバラカ親方に知らせる。なんでもバラカ親方のところでもドッジボールのうわさを聞いて、知りたがっているとか・・・。
クワルク親方のお弟子さんの従弟が、バラカ親方のところで船大工をしていて、最近結婚したそうだ。その時にドッジボールが面白くって・・・と従弟から話を聞いたらしい。
バラカ親方たちもその場にいたので、ドッジボールの話は耳に入り、興味を持ったものの、酔っぱらいの話なので、内容はわからないけど、とにかく面白いということは伝わった。そして、はじめたのが私だということもわかった。
バラカ親方からは工具入れのベルトやポーチの注文が入ったので、顔見知りだ。あの時は注文が多くてほんと大変だった。こちらが忙しいのがわかっていて、親方じきじき、うちへ注文に来てくださった。ありがたかったよ、ほんと。
バラカ親方からの返事はすぐ届いた。いつでもOKというので、リドムさんの荷馬車にみんなで乗り込む。
つくと、親方含め、20人くらいが集まっていた。お師匠さんがコートをかいている間に私は簡単な絵をかいて、ルールを説明する。親方の奥さんとか動くのがあんまり得意じゃない人は見学するということで、まずは私とお師匠さん含め、16人でやってみる。後の説明は実際にやりながら行う。
あちこちで何回も説明しているので、もう慣れたもんですよ、私。ハハハ。
まずは一回戦。5分でやってみる。2回戦からは私とお師匠さんが抜けて、奥さんや見学していた人が代わりに入る。今度は10分にして、元外野は適当なところで内野に入る。私がやっていたルールだ。正式なのは知らないけどね。
私は審判をしながら、さらに追加でルールを説明していく。
うまくよけたり、ガッシリとボールを受け止めたりすると歓声が上がる。同じチームの人が当てられるとアア~と残念そうな声があがるし、とにかく賑やか。
遠くのほうから様子を見ていた人たちも集まってくる。最初はまわりでみているが、やりたいというので、お師匠さんが線を引いてコートを増やす。最初にやったメンバーが分かれて、新しいコートにいき、教えながらやっている。
気づいたら、4面できていた。すごい盛り上がりだ。みんな楽しそう。いいよね、こういうの!結局、2時間たったところで親方の奥さんが時間を知らせ、終わりになった。まだ、お仕事が残っていますものね。
ルールを書いた紙を数枚とボールを5個、ラインマーカー5本を親方がお買い上げ。どちらもお師匠さんが作ったものだ。今はほかの工房で作るようになっているけど、お師匠さんは自分の作ったものを予備としてポーチに入れている。予備?予備って何?
最近お師匠さんは作ったものをなんでもポーチに入れている。どこにしまったかわからなくなることがないから便利なんだってさ。そのためにポーチの中を密かに拡張している。ちなみに私やオーカヨーさん一家、ジョージーさん、ソノーエさんのも同じ。イーシーのも作ったよ。マオさんとお揃いでね!
こうして布教、いえドッジボールの普及に頑張る私だった。いつか、ドッジボール大会とかできたらいいな。
*******************************************
さてさて、その後、ドッジボールはさらにやる人が増えているみたい。きっとクロミエでも増えていそう。沢山の人が楽しんでくれたらうれしいな!でも、流行ってくると場所が問題になってくる。
うちの庭?の一部をお師匠さんが更地にしてコートを作った。10人に合わせて決めたけど、子供と大人では体格差が大きいので、思いっきり投げたりとったりしたい人たちのために大人専用コートもつくる。
また、ちびっこたちもやりたがったので、幼児用のコートも作る。こちらは柔らかめの当たっても痛くないボールにした。
うちの庭は結構広いんだけれど、おもしろいと噂を聞いた町の人たちが一斉におしかけ、うちだけでは場所が足りなくなる。うちは町の外れなので、来るのが大変な人もいるし、毎日やりたい人たちは職場や家の近くでやりたいし。
そこでブリアさんに相談することになった。観光ギルドは商業ギルドに含まれているんだけれど、マンベールくらいの町は観光ギルドが商業ギルドの役割を兼ねているんだって。ドッジボールのメンバーたちと一緒にギルドを尋ねる。
お師匠さんが、お金を出すからドッジボール用に町の空き地をいくつか借りられないかと言ったら、使いたい人がお金を出し合えばいいとか、ほかの人たちが町で予算を組めばいいとか揉め始めた。
そこでブリアさんが提案する。商業ギルドが無料で貸し出すと。そのかわり、観光客を呼ぶためにドッジボール大会を開催するので、チームを作って出て欲しいと。わずかだが、賞金も出すと。
冬場は観光客が減るので、目玉になるものを探していたんだって。
そんなので観光客を呼べるのかは疑問だったが、ブリアさん曰く、ドッジボール用のボールやラインマーカーは、あちこちから問い合わせがきていて、お師匠さんが登録したものを元にしていくつかの工房で急ピッチで作られているとか。
クロミエはもちろん、同じゾーラ領のリームチ(ブリアさんのお兄さん家族が暮らしている)やなぜか王都で流行っているらしい。
というわけで、ドッジボール、いつの間にかすごいブームになっていた!
観光ギルドで告知がされると、あっという間にいくつものチームが名乗りを上げた。町のお母さんたちのチーム、農家の人のチーム、鍛冶屋チーム(おっと親方も参戦?)、ヒーターさんの家族チーム、あれれ?ご隠居さんたちのチームまでいるよ?クロミエからもバラカ親方のチームや?警備隊チーム?お、カプリス君も参戦か?
賞金は金貨5枚。およそ、日本円に換算すると5万円くらい。場所もただで貸しているし、採算採れるのかなぁ~?
ブリアさんはほかの町にもPRするからたくさんの観光客が来るだろうし、温かいものが食べられる屋台とかも出せば、元はとれるという。へぇ~、そうなんだね。
えっ?私、私のところは残念ながら人数が2人足りなくて・・・うん、1人じゃないよ、2人だよ。ドッジボールは魔法禁止なんだけど、魔法使ってなくてもソノーエさんの力が半端なくってね・・・。
お師匠さんが1000分の1の力しか出せない腕輪を作ったんだけど、それでも一緒にできなかった・・・。マオさんが試しに受け止めようと頑張ったんだけど、直前で避けたよ。だって球が見えないくらい速かったし、〝ゴォォォォォ~〟って怖い音がしていたもん・・・。
『ソノーエ、怖ぇ~よ!』ってマオさんが涙目で震えていたよ、お気の毒に・・・。イーシー君が慰めていたよ。マオさんは結構力持ちなんだけど、マッチョではないのです。戦闘も頭脳派ですしね。うん、無理無理。
しょんぼりしたソノーエさんは王都に行きました。王都にはムキムキマッチョの最強騎士団がいる。ソノーエさんは武器を使わない戦い方の指南役として時々招かれているんだって。
ここのところ、全く姿を見せない。お師匠さんのところにジャージができたら、教えて欲しいと手紙鳥がきた。騎士団を鍛えるプログラムとして取り入れ、一緒に楽しんでいるらしい。もちろん1000分の1腕輪をつけている。腕輪のおかげで思い切り投げられるって喜んでいました。
とりあえず、よかったね・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます