20 閑話 公爵令嬢のもやもや



 私はアンジェリー・ドリー公爵令嬢。幼い頃より、公爵家の令嬢としての矜持をもち、下級貴族はもちろん、平民にも気を配り、自分で言うのも何だけれど、結構面倒見が良いほうだと思いますの。

 つり目のせいで性格悪いとか、嫉妬深いとかきついとか思われて、色々噂されがちだけれど、意地悪なんかしたことありませんわ。間違っている時は、はっきりと指摘して差し上げるけれど、それは本人のためを思えばこそ。それを意地が悪いとか権力を笠に着てやり放題とか全く何ですの?




 この前もそう、マリーという奨学生が仕事と勉強で忙しく、顔色が悪かったから心配して声をかけようとしただけなのに、あの王子さまったら!プンプンですわ!




 あの方は幼い頃から勉学に励み、誰にでも優しく振舞われる。常に私たちの手本になろうとなさっている。どんな時も笑顔を絶やさず、本心を誰にもみせずに一人奮闘していらっしゃる。だってこの国の王子はあの方だけだから。

お力になりたいと思っている方はたくさんいるのに、あの方は気づかれもしない。どれだけ歯がゆいと思ったことか。




 ある日、呼び出しを受けました。学園内にある庭園でお茶をしようとのお誘いでしたわ。




 何やら内密の話とかで、お茶とお菓子をセットすると侍従や護衛たちも離れたところから見守るだけ。




 王子様はまずは私に謝罪されました。もうびっくりですわ!頭を下げるだなんて。




 マリーのことでは感謝されましたわ。マリーの実力に気づいた商会長は卒業後、マリーを商会で息子の右腕にしようと考えました。マリーに仕事を覚えさせようと躍起になって、詰め込みすぎていました。新人の従業員ならそれもありでしょうが、マリーはまだ学生です。それも奨学生。優秀な者が多い、あの学園で10位を維持するのは大変なことです。結果マリーは仕事と勉強に追われ、食事も睡眠もほとんどとれない状態になっていました。




 だから私、オレーロ商会へ乗り込んで、商会長に苦言を申しましたの。このままではマリーは倒れ、成績を落とすと。そうなれば、奨学生ではなくなり、学園をやめるしかなくなる。あの子の将来をつぶす気かと。



 商会長は真っ青になりましたわ。そんなつもりではなかったと。




平民が商会の幹部になるには、学園を良い成績で卒業することが必要ですし、学園で学ぶ知識は見識を広げるのに大いに役立つでしょう。商会長としてもそれは本意ではないはず。




仕事の時間を短くすることと給金をあげることを商会長に約束させましたわ。もし、守らなかったら、仕事をやめさせて、マリーは公爵家で援助すると。




マリーは30分だけ早く帰れるようになりました。30分だけ・・・。それでもマリーの顔色はずいぶんよくなりましたし、試験での順位もあげましたから、よしとしましょう。公爵家からの援助で栄養たっぷりの夕食を食べられるようになったのも大きいでしょうけれど。




なぜか、王子様はそのことをご存じでした。どうやって知ったのか聞くと王子様は不思議な話をされました。信じてもらえるかどうかわからないが・・・と前置きをして話してくださいました。




マリーの中には精霊のいたずらでキリコという迷い人の魂が入っていたと。キリコに周りの人に助けてもらえばよいとか、筋トレ?(これはよくわかりませんわ?その場でやってみせようとする王子様を必死で止めましたわ!)とか、国全体を覆う防衛システムつきの結界?(ありえませんわ!)とか助言されたと。




それで、まわりをよく見ると力になってくれそうな優秀な人材がたくさんいることに気づいたが、どう声をかけてよいかわからず、困っていると。




正直に申し上げて、王子様の話は半分も理解できませんでしたわ。でも本気でこの国を変えようとしていることは伝わりました。それを一番に、この私に一番に相談してくださったということで間違いないでしょうか?



うれしい!なんて光栄なことでしょう!うれしくって天にも昇る気持ちですわ!コホン。落ち着いて私!




それで、私はまずは生徒会役員を招集することを提案いたしました。さいわい、役員たちは私と同じように王子様のお力になりたいと思っている方たちばかりでしたから、都合がよいのです。




もちろん、私も生徒会の役員ですわ。王子様が会長で私が副会長。副会長として精いっぱい頑張らせていただきますわ!





王子様からこの国を豊かな国にしたい。そのために貴族、平民問わず実力のある人材を育てていくにはどうすればよいかと相談を受けた時の皆様の顔と言ったら!驚きと感激に満ちていましたわ。



皆様も私同様、尊敬する王子様を支えたいと思っていたのですものね。





平民を重用することについてはよく思わない貴族も多く、そのあたりは長い時間をかけて考え方を変えていくしかないことや学園に通う平民は奨学生で仕事と勉強の両立で忙しいことや貴族との接点がないこと、それは下位貴族も同じであることなど問題点があげられた。





私たちは何日も時間をかけて、王子様の理想に国を近づけるため、学園で何ができるかを話し合いました。


そして、生徒会補助という名前で下位貴族や平民を雇うことになりました。これについては学校側との話し合いも必要でした。生徒会予算からお金を出すことについては当然、渋られました。最後はブチ、コホン、公爵家で出すと言って黙らせましたわ!ええ、お父様からたくさんのおこずかいをいただいていますから、そんなのいたくもかゆくもないですわ。それに公爵家の私が出すことになれば、私のわがままということで通りますし。悪い噂を逆手にとってやりましたわ!



時間は毎日、放課後の2時間。お給金はオレーロ商会の2倍。つまりあちらで3時間働くより時間が短くて多く稼げるってこと。




当然、マリーも誘いましたわ。商会まで行く時間もかからないし、良いことづくめ!のはずなのに、マリーは週に3日でもよいかと言いました。お世話になっている商会には迷惑をかけられないというのです。ほんとになんてよい子なのでしょう!私、思わず、抱きしめてしまいましたわ!



ええ、すごくビックリしていました。ごめんなさいね、マリー。商会には私も一緒に行って話をつけました。週3日ということで決まりましたわ。ええ、文句なんか言わせません!

休日は私の12歳になる妹ジョリーナの勉強をみるという名目で公爵家で雇うことにして、休憩と称してお茶をしたり、私と一緒に試験勉強をしたり、妹の気分転換と称してお庭をお散歩したり、お昼は栄養満点で豪華なランチを、妹の食事のマナーの勉強のお付き合いと称して食べさせ(ついでにマリーもマナーを学べて一石二鳥ですわよ、フフッ)





えっ?お父様?お父様は将来有望な人材を広く集め育成することに大賛成で、私のおこずかいではなく公爵家からお金を出すと言われましたわ。礼儀正しく、賢いマリーのことも大のお気に入り。

お父様は財務大臣をしていらっしゃるのだけれど、マリーを狙っているみたい。王宮の文官になれば、お給金もすごっくいいらしいの。オレーロ商会長はケチだからそっちのほうが絶対いいと思うわ!




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王子様のまわりには力になりたい学生が次々集まり、生徒会補助の効果が認められ、後に学園の予算に組み込まれることになるのです。



でもねぇ~、あの筋トレとかいうのが、どうもわからないのよ?フーキンとか?スクワトとか?ウデタ・・フセ?ハイーキン?ストレチ???


王子様が始めたら、まずは騎士科で流行りだし、今では騎士科以外の男子生徒たちの間で密かに流行っているっていうから不思議よねぇ~。


その成果か、王子様は背が伸び、体つきもガッシリとたくましくなり、今では騎士団員のよう。将来の国王としては頼りがいあるように見えるし、近隣諸国にも舐められない風貌なのはよいことなのだけれど、あの美少年時代の王子様が時々懐かしくなりますわ。





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