第15話 シェイクスピアの古典的名作から学ぶ『ざまぁ』の重要性。

近年、『逆なろう』なるワードやアンチなろうの機運がささやかれるなかで

今一度、なろう要素の重要性を思い起こしてもらうエッセイです。


今回、作者が無断で胸を借りるのは四大悲劇で今も名を馳せる

シェイクスピアの「ヴェニスの商人」です。

これは一体どんなお話なのか。三行で説明しますと、


主人公が敵役からの借金を踏み倒し

それのみならず財産まで巻き上げ

挙句の果てに改宗させて尊厳を奪うお話です。


これなるヴェネチアでの喜劇、どうしてこのような事態になったのか。

まずは登場人物から説明させていただきたいと思います。


主人公アントーニオ

商人の中の商人、商人王ともうたわれ

貿易船を幾艘も所有する富商である。

人柄は正義感に溢れ困った人を見捨てられない

慈悲深い性格の持ち主だ。


敵役シャイロック

高利貸しのユダヤ人。

こちらも富める者だがその性格は強欲で冷酷であり

家庭人としても良識があるとは言いがたい。

皆からの嫌われ者である。


二人の関係はどんなものだったのか?

長年、アントーニオは顔を見合わせるたびに

シャイロックを殴り蹴りつけ犬畜生と罵倒し

ユダヤ人の象徴たる衣装に唾を吐きかけ

商売の邪魔をする、そんな間柄でした。


え?慈悲深い性格?

知らない子ですね。


なろうでもよく見られる光景ですね。

(貴族の家に生まれた主人公が親兄弟にされてる境遇)

くっそ! なろうだったらシャイロックがチート能力に目覚めて

アントーニオをワンパンするのに!!!


この二人どうしてここまで仲が悪いのか。

それは歴史的経緯、宗教、人種問題 時代背景などが絡んできます。


時のローマ帝国に発せられたミラノ勅令にて

キリスト教が公認され、ユダヤ教を含むそれ以外の

教えは異端とされました。


また、現代では当たり前の金を貸して利息を得る

行為はキリスト教(新約聖書)では禁じられており

キリスト教徒のアントーニオ、ユダヤ教徒のシャイロック。

ここでも宗派の違いという対立点があります。

(当時のヴェネチアは信教の自由が許されていたそうですが)


さらに、ユダヤ人は国を失った民族であり

その社会的基盤は弱く社会から弾かれていたため

頼れるのは同じユダヤ人だけというのも影響したでしょう。


つまり、シャイロックは

賎業を営む、異教徒=異端者であり

社会の中枢から除外されている2等市民でした。


そんなシャイロックにアントーニオは

手元に友人の婚活を成就させる資金がなかったために

3000ダカットなる金額の借用を申し出ます。


これは日本円にして一億数千万にもなる金額だとか。


シャイロックは要求に対して

アントーニオの過去の発言をあげつらいます。


「あんたは私を犬と仰いましたな?

 犬に一億もの金額を出せますかな?」


対して、過去の横暴を詫びるでもなく

相手を人間とも思っていないアントーニオが返します。


「友に貸すのではなく敵に貸すと思え

 そうすれば遠慮なく取立てができるだろう?」


腹立つわ~、こいつほんま腹立つわ~~

世が世ならば(なろうなら)次の朝日は拝めてねえぞ!


そうしてひと悶着ありつつも契約が決まります。


それは借りた額を期日までに返済できなければ

アントーニオの任意の部分から肉を一ポンド得る

というものでした。利息はありません。


後日、契約をした縁でシャイロックは

アントニオの友人の宴席に招かれることになりました。


しかし、その晩に悪意を持って

うごめく者達がおりました。


物語が激しく動き出すのはここからですが

一旦そこの部分は飛ばさせていただきます。



<時間経過>


時が経ち、怒り心頭のシャイロックに朗報が届きます。


それは、アントーニオの船が難破したために

彼が当てにしていた返済原資が無くなったというものでした。


こうして、交わした証文を実行させるために

アントーニオは収監されることになります。


話を聞いてくれと懇願するアントーニオに

シャイロックはにべもなく聞く耳を持ちません。


そんな彼をアントーニオの友人たちは悪魔と罵ります。

まあ、本当の悪魔はアントーニオと友人たちなのですがね。


事態が進み、いわゆる人肉裁判が開廷されます。


領主や周りの人間たちはシャイロックに

慈悲を示し、債務を一部免除するよう働きかけるも


シャイロックは頑なに証文通りの内容を。

心臓に近い部分の肉を一ポンド分切り取ることを主張するばかりでした。

一ポンドがどれぐらいか分からない人は一ポンドステーキを検索してみよう。

それをしたら確実に死ぬ量です。


話を戻します。

なぜ、シャイロックはここまで頑ななのか

そして、あの晩に何があったのか。


気が進まぬ宴席からシャイロック家に戻ると

彼は自分の家が荒らされていることに気付きます。


犯人は誰あろう。

冷酷な父を嫌い、心優しく純真で美しいとされる娘のジェシカでした。

アントーニオの友人ロレンゾと駆け落ちするために

父親の財産をちょろまかし、母の形見の指輪を持っていったのです。

関係としてはジェシカが主犯、ほか三人が従犯(全員アントーニオの友人)という形です。(罪を免れるためにジェシカが主犯という形をとっています)


血眼で娘を捜すシャイロックに娘の話が届きます。


なんと、彼が心血注いで稼いだ金は

娘ジェシカがレッツパーリィィィィィ!(大統領魂)しているというではないか。

その額は一日80ダカットもの豪遊っぷり(日本円にして数十万円)

しかも、すでに妻が残した形見の指輪を省みることなく売り払ってしまった由。


心優しく純真とはいったい・・・うごごご!


この辺、読み手の解釈によってだいぶ変わると思うのですが

抑圧から開放された反動で。

ホストに入れ込む哀れな若い娘。

母親の形見を売り払う血も涙もない娘。

父親が稼いだ金で豪遊する放蕩娘。


など色々取れるかと思います。

ちなみに二次創作などでは

母親の指輪だけは密かに持っていたという後付があったりします。


それから金を奪われて発狂しているシャイロックを

アントーニオの友人が「ユダヤの犬が」と面白おかしく喧伝しているので

アントーニオもシャイロックに降りかかった不幸をもちろん知っています。


自分の、友人たちが、何を、したのかを!!!!


裁判に話を戻しますが

ここで皆さん気付くはずです。


最初の主張、アントーニオの任意の部分から肉を切り取るのが

アントーニオの心臓に最も近い肉を切り取るに変わっている事に。


つまり、彼がいつアントーニオに殺意を抱いたのか。

最初から憎むアントーニオを殺すための契約だったのか?


自分としては、嫌いなアントーニオに意趣返しするための契約であり

それを明確な殺意に変えてしまったのはアントーニオとその友人たち自身であると

考えています。


なので、シャイロックを悪魔と罵ったのは的外れであると上で述べたわけです。

悪魔たらしめたのは、悪魔であるアントーニオ一党なわけですからね。


なろうなら、ここでシャイロックに、

答え①ハンサムのシャイロックは突如反撃のアイデアがひらめく。

答え②仲間がきて助けてくれる。


の二択を授けようものですが

残念ながら、主人公たち悪魔の快進撃は続きます。


ここで現れるのが悪役令嬢、もとい友人の奥さん

ポーシャです。


なんと彼女は先に法廷へ来ていた夫を尻目に

法学者に偽装し、偽名を持って裁判官としての立ち位置にいました。

ポーシャはシャイロックに再度慈悲をかけるように促します。


「友人は元本の二倍に当たる6000ダカットもの額を提示している。

 慈悲をかけねばなるまい」


やはり、ここでも首を横にふるシャイロック。

強硬な姿勢は崩しません。


そこで弁護を諦めたのか(裁判官が弁護ってなんだよ)

ポーシャはシャイロックが肉を切り取ることを認めます。


そうして寝台に寝かされて拘束され猿ぐつわを噛まされるアントーニオ。

シャイロックが心臓の位置へと研ぎたてのナイフをあてがい尽きたてんとした

まさにその時、


「ただし!!!」


ポーシャの一喝が響き渡ります。


「肉は認めるが一滴たりとも血を流してはいけない」


ポーシャはシャイロックが証文の内容に強硬だったことを逆手に取り

証文に血については許されてはいないとしたのでした。


血は肉に付随するものとの反論は認められず

それならばと金を受け取ることを了承しようとするも

金を受け取ることを拒否したためにポーシャはそれを許しませんでした。


諦めて退出しようとするシャイロックを

ポーシャは「お前が法に用はなくとも、法はお前に用がある」と殺人未遂で逆告訴します。結果、シャイロックから財産を全額没収する判決がでます。


シャイロックの進退窮まる中で

アントーニオはキリスト教徒としての慈悲により

シャイロックの死後、財産の半分を娘に与え、国に収められる。

キリスト教徒に改宗するなら死罪は免れるという話に。


全く慈悲に思えませんが。


ここでシャイロックから抵抗する気力は失われていますが

尊厳や財産を奪おうとするアントーニオに対して

最後まで肉の切り取りを強行してほしかったです。

死なばもろともですね。


もしかしたら何らかの譲歩を引き出せたかもしれません。

あるいは主人公たる悪魔アントーニオを殺して五大悲劇にするべきだったのではないかと。


ここから大団円にかけて物語は進んでいきますが

シャイロックの娘と夫の駆け落ちがどうなったか

皆さん、気になる方も多いでしょう。


本来であれば、早晩盗んだお金を使い果たしたであろう二人は

ポーシャの館に落ち着くことになります。

ポーシャは作中随一の押しも押されぬ金持ちです。


つまり泥棒夫婦はこの先も安泰な上に、シャイロックの遺産まで手に入るのです。

泥棒に追い銭ENDですね。


くっ、これがなろうだったら絶対

簡潔までに悪事を働いた何人かはざまぁされてるのに!

このモヤモヤはどこにぶつけたらいいんだ……


そうだエッセイでぶつけよう!


そして、この物語がどうなるか気になる方!

ここから先はキミの目で確かめてくれ!

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なろうで書いたエッセイ集(創作論、愚痴、風刺、突っ込み) @ameirotamanegi

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