第4話
【対称的な彼女との出会い】
戸を開けると風鈴が笑うような音が鳴り、暖簾を手でくぐり、とある居酒屋に入る。
そこには10人程の大学生がおり、昼にあった彼に手招きされた。名前を雅人という。
彼はサークルでバンドを組んでおり、時々小規模のライブなども開催しているそうだ。
らしいなと思った。
「こいつが優一、サークルとかは入ってないんやけど暇そうやから誘った。」
雅人は嬉しいそうに僕のことを紹介した。
「あ、優一です。サークルはやってません。よろしくお願いします。」
と、当たり障りのないことを言うと歓迎とも困惑とも取れないような拍手が帰ってくる。
遮るかのように店員が注文を聞いてきたので、生をひとつ注文し雅人の隣に座る。
「優一君趣味とかあるの?」
と、斜め右の巻き髪で、とても綺麗な化粧をした女性がグラスでハイボールか何かを飲みながら聞いてくる。
咄嗟にイラストと言いそうな口を塞ぎ、何かないか考えようとする。
不思議そうに顔を覗き込んでくる女性に汗を浮かべつつ、
「映画です。ジブリとかそういうの。」
胸の奥がチクっと針に刺されるよな細かな痛みに襲われた。
適当に彼女と話をし、お酒に酔っていると、
「私アマチュアのシンガーソングライターやってて!今度動画アプリで曲出すんですよ!」
明朗快活にいう彼女は艶やかな黒髪ロングに白い肌が対称的で服は緩いパーカーにジーパンといった一見清楚そうで元気さもあり、少し変わっているなと感じた。
「へぇー凄い!プロになるつりなの!?」
先程話していた女性が囃し立てる。
「そうなんです!プロになって稼いでいきたくて!その為に一緒にMVとか作れる方を探してるんですけどなかなか見つからなくて...」
強烈に彼女に嫉妬した。
好きなことをこんなに嬉しそうに、容易く喋ってしまう彼女が羨ましくてならなかった。
否定されるなんて蚊ほども思っていない純粋な眼が僕の心を折るには充分だった。
「でもプロになって稼げるのなんてひと握りなんですよね?」
気づけばそんな嫌味ったらしい気持ち悪い言葉を口にしていた。
なんとか彼女を諦めさせたかった。
幼少期に夢を諦めてしまった僕と同じ気持ちを共有したかった。
自分の存在意義がなくなってしまうように感じたから。
「そうなんですよ!だから一生懸命頑張らないと!応援してくださいよ!」
僕の嫌味も太陽のような笑顔でニカッと笑い、一蹴してしまった。
その瞬間、いつの間にか強烈な熱望が彼女を
覆っていた。鮮烈な彼女との出会いに折れかけていた僕の心は憧れへと変わっていた。
合コンも終わり、みんなと別れた後、僕は薄暗い繁華街を尻目に小さな彼女の背中を追い、夜を走った。
「あの、先程MVを作りたいと言っていましたよね?」
痰が絡んだ掠れ声で息を切らしながら話す。
胃の中の物が気持ち悪い。
「あ、さっきの嫌味ったらしい人!」
皮肉めいた嬉しそうな顔でそう答えた彼女に困惑する。
「そうですね。色々SNSとかで探してるんですけど金銭トラブルとか怖そうで...もしかして作ってくださるんですか!?」
勢いよく僕の手を取り、近づいてくる彼女の手を払いつつ、少し顔を赤くして答える。
「すいません。過去のトラウマから少し女性に対して嫌悪感があって。趣味がイラストなのも隠してきたんです。でも、このチャンスを逃したくなくて。僕にMVを作らせてくれませんか?」
これの出会いが僕の人生を大きく変えることになるなど思いもしなかった。
涙で濡らした紙をもう一度 孤独 @KizugutsiniHignbana
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