第5話 違和感

最近、左にあるものを倒してしまうことが多くなってしまった気がします……。私の左眼は問題なく見えてるはずなのに、私の左側にあるものを見逃してしまう。

 ︎︎ただの注意不足だといいんですけど……。


ガタンっ!


「またぶつかっちゃいました……。これでもう何回目でしょう、やっぱり私の左眼がおかしくなっちゃったのでしょうか?」


事故直後に視力が低下するのは知っています、でもそれは約3週間ぐらいで治るはず……。入院していたし病気だとしたら医者の人が見逃すわけが無い、私が退院出来た以上は病気では無いという事だろう。



§§§



学校に行く道中で、私は何回も転びそうになってしまった。左側がぼやけて見えるせいで段差があるのにそのまま歩いて行ったり、普通だったらありえないことばかりだ。

 ︎︎やっぱり私の左眼に何か問題がある気がする、時間があれば今日のうちにさっさと病院に行って置いた方がいいかもしれませんね。


「さっきから何回も転びそうになってるけど大丈夫?」


「ふぇっ!?」


「あ、なんかごめん」


「居たのなら声をかけてくださいよ……。声を掛けてくれたのが澄風さんだから良かったですけど、他の人だったら話せませんでしたよ?」


ここで声をかけてくれるってことは何回も転びそうになってる私を心配してくれてのことだとわかってるけど私がコミュ障なせいで心配してくれた人と話せないんですよね……。実際は誰も話しかけてくれない、まぁ友達でもないただの同級生という関係なんだから声を掛ける人の方が珍しいと思いますけど。


「もうすぐで学校に着くけどさ、教室に行くより先に保健室に行ったら? 先生には俺が言っておくからさ」


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、転びかけたのはただ単に私の不注意ですから」


「左眼、前の時は確かに大丈夫だったんだろうけど……今はどう? ちゃんと見えてる?」


私の左眼のことを知ってる澄風さんにそんな言い訳通用しませんよね……。


「お気遣いありがとうございます。念のため保健室には行きますけど、澄風さんがそこまで心配する必要は無いんですよ? 澄風さんには関係ないことですし、想定してるようなことにはならないはずですから」


「それは分からないよ? とりあえず最悪の事態にならないうちにさっさと病院に行った方がいい、今ならまだ治せるかもしれないからな」



§



俺は早速昼休みに胡桃さんの左眼のことを小鳥遊に相談した、まぁ偶然楓もその場にいたので楓にも相談する形になってしまったが別にいいだろう。そういや朝に見てから1度も校内で胡桃さんを見てないな、病院にもう行っているのだろうか?


「その胡桃さんのことはあんまりよく知らないけど、左眼に何か違和感があるって話だよね? 正直言うと病気とか全然分からないし病院に行くように言うことしか出来ないと思うんだよね」


「そうだよなー、俺たちにできることはそれぐらいしかないよな。朝から胡桃さんを見てないし病院に行ってるといいんだけど」


事故で3週間ぐらい視力が低下するのは知ってる、でもそれは治るはずだし後遺症もほとんどの場合は残らないはずだ。それで胡桃さんはその例外で、知識のない俺が考えられるとしたら何かしらの病気が原因で視力が低下していることぐらいか。

 ︎︎胡桃さんの左眼が見えなくなるかもしれない、考えたくもないな。


その時にスマホの音が鳴った……胡桃さんからの連絡か。


『突然すみません、いま病院にいるんですけど……やっぱり左眼の視力が落ちてしまっているようです。医者の人は外傷性白内障と言っていました』


『病気のことはよく分からないけどさ、それって治る可能性あるの?』


『軽度だったら内服薬や点眼治療? で何とかなるらしいです。でも私の場合は生活に支障が出てるので超音波水晶体乳化吸引術? というのをするのが一般的らしいです』


うーん、よく分からん。まぁ胡桃さんの左目を治すためには手術をする必要があるということらしいがいまさっき一瞬で調べた限りそこまで危険性は無さそうである。


『それで結局胡桃さんは手術を受けるつもりなの?』


『放置していてもいいことは無いと思うのでお母さんと相談して受けたいと思ってます。入院しないといけなくて会えないのは寂しいですが早く治して万全の状態で会いに行きますね』


『それじゃあ俺は小鳥遊と交代で配布物とかを渡しに行くとするかなぁ。どうせ勉強以外することないし』


「勝手に僕も行くことになってない?」


画面を覗いていた小鳥遊がそう呟くが俺が「行かないのか?」と言うと「いや、行くけどさ」と返ってくる。まぁ普通に考えてそうだよな、勉強より胡桃さんのお見舞いに行くのは当たり前だよな。


「先輩たちは受験勉強があると思うので渡してくれれば私が届けに行きますよ。その胡桃先輩とも仲良くなっておきたいですし、隼人先輩は受験勉強まずいんですよね?」


「小鳥遊はこのままいけば大丈夫だろうし、胡桃さんは入院したとしても元から頭がいいから大丈夫だろうし、普通にまずいの俺だけだね、うん」


「なら尚更私が持っていきますよ、先輩たちは勉強しておいて下さい」


俺はそう言われても自分で届けるつもりだったが楓に押し切られて結局配布物は楓が届けることになった。そのことを胡桃さんに伝えて、今日は終わった。

 ︎︎まぁ胡桃さんと楓が友達になれるんだったらそれでもいいか。


今はただ胡桃さんの左眼が早く治ることを祈るばかりだ。

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女の子を家まで届けたら俺のことが嫌いな後輩が出てきた件 桜木紡 @pokk7

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