第8話 旅は続く
山向こうの街で俺たちは別れた。セリナ姫はかなり消耗していたが、やはり魔力の強い女は回復が早い。もう少し休めばすぐ歩けるようになるだろう。俺は先を急ぐと言ってソルに乗り、すぐに街を離れた。
歩きながらソルは明らかに残念そうにしていた。いつも俺が「可愛い女の子をいつか乗せてやるからな」って言っていたのを間に受けていたのだろうか。まさか女の子とすぐに別れるなんて思ってなかったんだろう。
「え、何であんな嘘をついたかって!?」
どんなに魔力を放っても、「理想の花嫁」とされる女の魔力は尽きることがない。セリナ姫はそういう意味ではかなりいい女だったと言える。それなりに可愛かったし、正直このまま連れて帰ってもいいかなーとかちょっと思った。
「決まってんだろ! あそこで俺が連れて帰るなんて言ったら男としてダメだろ!」
あの二人を見ればわかる。なんでライファー君が本国の応援を待たなかったのか。なんでセリナ姫が俺に礼を言ったのか。そんなところで俺が野暮なこと出来るわけがない!
「大体な、ああいう女は絶対あとで昔好きだった男のことをグチグチ言うって相場が決まってるんだ! 理想の花嫁と言っても理想の新婚生活は送れないんだ! わかるか!?」
ソルは一度首を振って頷いたようだった。
「そうか、わかるか俺の気持ち。やっぱり俺にはお前しかいないよ。お前が女だったらなぁ……」
ソルは今度は首を振ったように見えた。
「悪かった悪かった、ごめんよ冗談だよ。これからもよろしくな」
ソルのたてがみを撫でるとソルは機嫌を直したようだった。
「まあ、謝礼ももらったし、いいものは頂いたし……」
俺はこっそり青い魔力の結晶を懐に忍ばせていた。あれだけ高密度な魔力の結晶、もらっていかない訳にはいかない。これさえあれば、いざというとき何とかなるってものだ。王族証明書なんかよりも俺の身の上を証明するもの。それ故争いの元になるもの。俺に流れ者の生活を強いるもの。
「さて、俺の理想の花嫁はどこにいるんだろうな……」
とりあえずライファー君から少しもらった謝礼で、旅装束でも買い換えに行こうか。王族証明書で限界まで割り引いてもらわないと。
こんな生活はもう嫌だなあ。どこかに俺を好いてくれる理想の花嫁はいないかなあ。それか俺を拾ってくれる花嫁でもいいな。脳裏に幸せそうなライファー君とセリナ姫が浮かんで、俺はため息をついた。
ああ、やっぱり王族になんて生まれるもんじゃないな。
白馬の王子だけど、国外追放されたので理想の花嫁を探す旅に出ます 秋犬 @Anoni
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