第7話 衛士とお姫様
ドラゴンを怯ませてからお姫様を抱えて、俺たちは何とか森の中まで逃げてきた。途中で合流できたライファー君にお姫様を任せて、俺は逃げることに集中した。魔力を操ることはできるけど、女の子を長時間担いで走れるほど俺は身体が丈夫じゃないんだよ。
森の奥深くまで逃げてくると、流石にドラゴンも追いかけてくることが出来ないと思ったのか諦めたようだった。奴らデカいから森には入れないもんな。
「あー……疲れた」
久しぶりに全力で魔力操作をした俺は地面に倒れ込んだ。まあでも、お姫様が助かったからいいか。ライファー君は弱っているセリナ姫を抱えて、泣いているようだった。
「姫……よくぞご無事で……」
「ごめんなさい、私のために危険なことを……」
姫も泣いているようだった。しかし魔力をかなり吸い取られて、今は声を出すのがやっとのはずだ。
「あの……助けて頂いて本当にありがとうございました」
セリナ姫が俺の方を向いて礼を言う。
「いえ、これも俺の運命というか仕事というか……」
俺は率直に意見を述べる。
「おそらく本国の応援を待っていたら、貴女は助からなかったでしょうね」
セリナ姫の体力を見る限り、これ以上遅れていたら彼女は確実に魔力を全部吸い取られていた。
「貴方は命の恩人です。私を、貴方の国へ連れて行ってください」
セリナ姫は弱ってはいるが、しっかりとした声で俺の目を見て言う。
「それなんだけど……君、もう理想の花嫁になれないよ」
「え?」
俺の言葉が予想外だったのか、セリナ姫もライファー君も驚いている。
「だって、これだけ魔力を放出してたら、ただの女だからね。全く、こっちは骨折り損だ」
俺はセリナ姫の額に手を当てて、魔力をかなり消費しているのをもう一度確認する。
「だけど第四王女なんだろう? 嫁入り前の王女がただの女になんかなったら大事だ。本国は君を抹消しに来るかも知れない」
セリナ姫よりライファー君のほうが狼狽えているようだった。
「そんな……じゃあ一体どうすれば」
「君が守ってやればいい。どうせ君も本国に帰るつもりもないんだろう?」
セリナ姫がライファー君を見る。その瞳に見つめられて、ライファー君がそっぽを向く。
……やっぱりこいつそういうことじゃん。
「もうこの娘はただの女だ。王女でも理想の花嫁でも何でもないどころか、もしかしたら命を狙われるかもしれないか弱い存在だ……後はわかるだろう?」
ライファー君はそっぽを向いたまま頷いた。そうだよな、さっき男と男の約束したもんな。
「そうだ、これをお返しします」
ライファー君から金色に輝く魔力の結晶を受け取った。これ、使わなかったんだな。やっぱりこいつ根性あるな。
「さて、山を越えるぞ。姫はソルに乗ってもらって、向こうの街へ行こう。そこからなら大陸間横断の船が出ている街まで容易に行けるはずだ」
「あの……本当に、いいんですか?」
セリナ姫が俺を見つめる。
「いいんだ、こんなドラゴンに魔力を吸い尽くされた女に俺は興味ないんだ。他を当たるよ」
俺は冷たくセリナ姫に言い放つ。
「……ありがとうございます」
セリナ姫はにっこりと笑った。ああ、やっぱりこの子可愛いな。全く、ライファー君が羨ましいよ。
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