第7話
遠くの夜の闇を照す車のライトが、カシムのいる方向に向かって近づいてくる。
車はカシムから50m程離れたあたりで止まった。車を降りる2人の影が見えた。
カシムは身を伏せてじっとしていた。2人が彼の位置に近づいていく。
その距離が20mまで差し掛かった時、1人が声を張り上げた。
「そこで何をしている!」
カシムは動かなかった、というよりも動けなかった。
もう一人は異国語で何を言っているのか不明だが、
何かの端末に向けて交信しているようだった。
さらに距離を詰めながら、男がカシムに向けて持っているライフルを構え、
「どこから来たんだ?」と言った。
立ち上がりながら、カシムはゆっくりと両手を上げた。
「身分証はあるか?」
カシムは両手をあげたまま、俯いてゆっくりと後退った。
カシムは次の手を考えたが、何も思いつかず、後悔の念に駆られた。
その矢先に遠くから何やら大きな音がするのを聞いた。
ライフルを構えた男が音がした山肌の方に振り向き、その方角を見つめて静止した。
次の瞬間、
8m程の巨体が2回、宙返りをしながら迫り、カシムらがいるすぐ傍に着地した。
着地の衝撃で大地が揺れ、土が舞った。
ライフルを構えていた男は、腰が引けていたが、
銃を下ろし踵を返すと、何事も無かったかのようにもう一人と共に
先程止めてあった軽装甲車の方に歩いていった。
そして大きな影は駆動音を鳴らすと、カシムのほうを向き、光で照らした。
ライトの光で照らされたカシムは屈んだ態勢のまま動かないでいた。
その巨体から人間の声が再生された。
「君は今、包囲されている。君が連れてきた仲間の位置も把握済みだ。
"もう"逃げることはできんぞ」
「君がいた野営地にも部隊を送っておいた、おとなしくしておいた方が賢明だと思うが、どうだろう?今後の為に」
カシムは慎重に身を起こした。
「悪いようにはしない」
軽装甲車の周辺に5、6人の人影が見えた。
カシムは小さなため息をつきながら、苦笑いした。
そして肩の力を抜き、両腕をだらりと下げ、ゆっくりと何度も頷いて見せた。
カシムの方に跳躍してきた巨体は”クーガー”と呼ばれるAIロボットだ。
クーガーは戦術型行動分析センサー”スキナー”のスキャニングデーターを声の主に送った。
「よろしい」
再生されていた声は、
クーガーに送信された声をこの国の言語に変換したものだった。
クーガーは元になった”マーミドン”と呼ばれる鈍重な宇宙開発用モデルとは違い、
水平に50m、垂直に30m跳躍することが可能になっている。
鳥類の様に改変された逆関節の脚を畳み、予備動作をすれば最高で100m飛び上がることもできる。
8m程もあるその巨人はスキナーの被攻撃予測機能と跳躍力を併用し、
危険を回避(ドッジ)する。
飛び上がったクーガーは空中で姿勢を自在に制御し、
異なる地形を連続して蹴って飛びまわり、パルクールの様な機動も可能である。
両腕は専用の砲塔やロケット等の兵器を換装できるように改良された。
マーミドンの手は人間のそれと同じ形に作られたが、
クーガーの場合、
手のひらと思われる部分は小さく、4本の指、
というよりも関節の有る爪のようなものに変更された。
クーガーには頭が無く、前に突き出た、流線的な胴体の中央の上あたりには、
一本の狭い溝が帯の様に一直線に横切って光を帯びていた。
クーガーは静止した、
そして胴に帯びていた細い光がゆっくりと消えていった。
同時に、怒鳴り声と共に5人の兵士がライフルを構え暗闇から姿を現した。
カシムは地面にへたり込み、放心した。
一方、
居場所を押さえられたイスマエルは抵抗する間もなくあっさりと捕らえられ、
少女と2人の民兵は野営地で瞬く間に包囲された。民兵は武器を捨て、投降した。
(理の間)
C「プハー」
シンカーCはDが操作している理の天秤の傍に行き、
その周辺に漂っているレギオンを吸い、砂を吐き出している。
吐き出した砂が霧の様に漂う。
B「またサボってるな」
A「いいかげんやめたらどうだ?」
C「無理無理」
A「おまえも、少しは手伝え」
D「ああ、後でやる」
B「あいつ、ずっとあれをいじっているな」
A「どうせまたすぐに飽きて、次のおもちゃをさがすさ」
D「ん?」
Dが操作している無限に近い天秤がわずかに傾きシャラシャラと音を立てた。
A「どうした?はやくこい!」
B「プハー」
妄想世界 太郎ま @hayama44
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