第58話 回らないやつやん……

「………なんでこういう時にリムジン使わないんですか?」


「どうした、柳君?リムジン乗りたかったかい?」


「いやそういうわけでは………」


俺は今、藍沢社長とトップアイドル4人と一緒に道を歩いていた。


四方八方から視線が突き刺さる。


構図でいえば、イカした美女軍団に囲まれるモブ1匹。


違和感がないわけがない。


むしろ違和感しかない。


「あれeternal bondの4人じゃね?」


「本当だ〜!あの女の人もめっちゃ可愛いし、誰だろ!?」


「あの人、eternal bondが入ってる事務所の事務所長だって」


「すっご…………」


「じゃああの男の人は誰だ………?」


ですよね、そうなりますよね。


1等星の中の1つだけ暗黒星雲が混じっているようなものだ。


「スタッフか何かじゃない?」


ごめんね、違うんだ。


本当はスタッフより遥かに深い関係にあるので、すごく居た堪れない気持ちになった。


「今、どこ行こうとしてるんですか?」


「ああ、親会社のお偉いさんとかとよく行く寿司屋だよ。柳君はお寿司は好きかな?」


「大好きですけど………」


「ああ、お金の心配は要らないよ、私が払うから」


行かなくても分かる、ぜっったいに回らないやつだ。


社長クラスの金持ちたちが行く寿司屋なんだからリーズナブルな回転寿司なわけがない。


それを奢ってもらえるとなると流石に腰が引けてしまう。


だが、奢ってもらわないと払える額ではなくなる気がするのでこれ以上何も言わないでおいた。


「ついたよ」


あの後少し歩いて、藍沢社長が言っていた寿司屋に着いたのだが……


「うわぁ」


そう声が出てしまった。


予想通り、高そうなお寿司屋だ。


「お、藍沢社長じゃないですか」


店のドアが開き、中から筋骨隆々の男の人が顔を見せた。


顔を見ただけで誰だか分かると言うことは、藍沢社長はここの常連なのだろう。


「おお、今日はよろしくな」


藍沢社長もかなり慣れている。


「今日はどんなネタが入ってるのかな?」


高級寿司屋の常連は店の外でこんな会話するんだ……


「そういう話は中に入ってからしましょうか」


訂正、藍沢社長が変だったらしい。


店主が中に入るように促してきた。


「久しぶりね〜」


「沢山……食べる」


「お腹減ったわぁ〜」


3人もお腹が相当減ってるようだ。


対して運動をしていない俺がお腹減っているのだから、レッスンをしてきた3人は尚更お腹が減っているのだろう。


(お金は………もう良いや!忘れよう!4人ともお金持ちだから払えるはず!)


またお金のことに頭が行ってしまったが、そんなことを気にしていては味を楽しめないので頭から再度追い出した。


「今日はカンパチと天然マグロが良いの入ってるけどどうする?」


「じゃあ私はそれを」


「私も………」


「「藍沢さんと同じので」」


「じゃあ俺も同じので」


俺たち5人は店主の勧めたカンパチとマグロにした。


魚がみるみると解体されて柵状になっていく。


目の前で大きめの魚が捌かれるのを俺は見たことがなかったので、結構見てて楽しかった。


「ゆーくんってお魚好きなの?」


俺が目の前の光景に釘付けになっていると、志歩がそう聞いてきた。


「種類によるけど好きだよ」


「じゃあ魚料理も勉強しなくちゃねっ!」


「おお、それは嬉しいな」


そう答えてまた俺は魚に目を向けようとした。


目を魚に向ける途中で、俺は3人の視線が自分に向いているのに気付いた。


そして俺も3人の方を見る。


「………………」


「「「……………」」」


3人とも温かい目で俺を見ている。


すごい微妙な空気だ。


「おしどり夫婦、って感じね」


奈珠華が呟いた。


そう言われて、俺はさっきの会話を顧みて見た。


(…………)


うん、夫婦だ。


奈珠華の言う通りおしどり夫婦という感じの会話をしていた。


「あい、マグロだよ」


気まずい空気を切り裂くように店主が声を上げた。


石皿の上に脂でテカテカと光るマグロの乗ったお寿司が5貫ある。


「「「「「いただきま〜す」」」」」


俺たち5人は出されたお寿司を手に取って口に放り込んだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「いっぱい食べたね〜ゆーくん」


「ああ、結構、食べたな」


食べ始めてから1時間半ほどで、俺はお腹をさすっていた。


マグロとかの赤身魚に脂が沢山乗っていたので、案外すぐにお腹いっぱいになった。


志歩も普段ほどは食べていない。


それでも十分多いんだけどね。


「じゃあお会計しておくから外で待っててくれ」


俺たち4人は藍沢社長にそう言われて、外に出ようと藍沢社長の後ろを通り過ぎた。


その時だった。


俺の目にとんでもない額の表示された会計機が目に入った。


「oh…………」


素で反応してしまった。


そしてそれを当然のような顔でカードで支払う藍沢社長にも目を剥いた。


(感覚が、違う………)


富豪と金持ちの感覚の違いを実感した瞬間だった。


後書き


ずっと更新できなくてすいませんでした。

良い内容が思いつかないのともうひとつの作品で手が回らなくなってしまっていました。

エタるのは絶対に嫌なので、今後も更新は続けます。

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アイドル(危機管理能力皆無)と許嫁になるとどうなるのか?(感謝1万pv!) キロネックス @kironekkusu2007

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