第57話 アイドルとしての4人
「よしっ!じゃあちょっと待ってて着替えてくるから!」
「そんな気合い入れなくても」
「ダメ!ゆーくんにはちゃんとしたの見て欲しいから!」
そう言って、そばにあった荷物を持って部屋から出て行ってしまった。
「じゃ!そういうことで!」
「またねぇ〜」
「………」
奈珠華と蜜花、夏木も志歩に続いて出て行ってしまった。
「えー………」
「まぁうちのトップアイドルのパフォーマンスを柳くんが評価してあげてくれ」
「うわぁ!」
どこに潜んでいたのか分からないが、藍沢社長がぬっと姿を現した。
この人存在感薄すぎでしょ。
「俺ダンスとか歌とか聞いたことないから分かんないんですよね……」
悲しい事に高校に入るまでボクシング以外に殆ど興味の無かった俺は歌とダンスすらもよく知らなかった。
「だとしても、何か感じると思うよ」
「そうなんですかねぇ〜」
「では私はこれで……」
音も立てずにドアを開け、部屋から去っていった。
「ゆーくーん!」
「おお、おかえり」
志歩たちが戻ってきた。
「可愛いね」
自然とそんな言葉が口から出てしまった。
志歩は白と黒メインの色の服とスカートを履いていて、サラサラの金髪とマッチしている。
「志歩〜待って〜」
続いて奈珠華、蜜花、夏木も戻ってきた。
奈珠華が濃いピンク色をしたシャツの上に黒いパーカーを羽織って、黒のデニムを穿いている
本人がクソガキ感が出てるのも相待ってかっこいい雰囲気だ。
蜜花は薄緑のワンピースに薄い青色のスカートを穿いている。
小柄で優しい色の服を着ているから小動物みたいだ。
夏木は真っ白なTシャツに白いスカートを穿いていて、清楚な感じが溢れ出ている。
「じゃあここに座ってて!」
志歩がどこからか椅子を持ってきて、ステージの目の前に置いた。
特等席だ。
俺が座ると志歩たちが陣形を作り始めた。
「じゃあミュージックスタートーっ!」
「♩〜〜〜」
メロディが流れ始めた。
それと同時に志歩が歌い出し、その歌声で俺は4人の作り出す空気にグッと引き込まれた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♩」
「本当に良いものを見せてもらったよ」
なんかもう凄かったとしか言いようがない。
志歩の歌声がめちゃくちゃ綺麗だったのも印象に残ったが、奈珠華が途中ブレイクダンスをしていたのも印象に残った。
夏木は普段、声をあまり発さないのでよく分かっていなかったが、こちらも透き通るような高音ボイスが良かった。
蜜花は奈珠華と一緒に合わせてダンスをしていて、普段のおっとりした様子から考えられないほどキレッキレのダンスを見せてくれるた。
「具体的にどこが良かった?」
「具体的に……4人のコンビネーションが良かったと思うよ」
「1番そこ練習してたから上手くいったみたいで良かったよ〜」
これは藍沢社長が、ダンスとか歌に疎くても良さが分かると言っていたのは嘘ではなかったみたいだ。
目の前の4人に引き込まれる感覚があった。
あの感覚は俺が初めてボクシングの試合を見た時ぶりだ。
「奈珠華と蜜花って運動神経めっちゃ良かったんだね」
「そうかしら〜」
「でしょっ!」
謙遜の混じった声と、自慢げな声が聞こえた。
これだけすごいパーフォーマンスをして、謙遜しているのも凄いと思うし、普段は腹立つ自慢げな声も今は感心しか感じなかった。
「夏木も歌上手くない?」
「…………なら良かった………」
やっぱりあまり言葉を発さなかった。
こんなに綺麗な声をしてるなら普段から話せば良いのにとも思うが、本人なりの事情があるかもしれないので何も言わないでおく。
「よし!じゃあ今日はこれで終わりっ!」
「え、まだ12時……だった」
スマホをみるともう12時半になっている。
楽しい時間は過ぎるのが早い。
「どうだった、柳くん」
「うわぁ!」
また音もなく藍沢社長が現れた。
この人急に出てくるから心臓に悪い。
「なんか凄かったです、流石トップアイドルって感じでした」
「あはは、随分と抽象的な感想だが志歩たちが人気な理由が分かったようで良かったよ」
「藍沢社長!今からご飯行きません?」
普通こういうのって上司が部下を誘うんじゃないの?
あと藍沢社長にも仕事あるでしょ。
「志歩、藍沢社長も仕事あるー」
「全然大丈夫だよ、行こうか」
「承諾した!?」
他の3人は「いつも通りだね」みたいな雰囲気を出している。
「じゃあ俺はここで〜」
トップアイドル4人と社長と一緒にご飯を食べれるほど俺の神経は図太くなかった。
普段友達感覚で接してるとはいえ、プライベートで出かけるとなると緊張する。
しかも今回に限っては志歩も変装なしだ。
はたからみれば、トップアイドル4人とその取りまとめ役に囲まれるモブ1人という違和感しか無い光景が広がるだろう。
「待ってくれ、柳くんも一緒にどうだい?そんなに高い所行くわけじゃ無いんだけれども」
やっぱりそうきますよね〜
「じゃあご一緒させて頂きます」
断るのも忍びないので俺は一緒に昼食を取る事にしたのだった。
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