第3話 空中散歩
「父君、母君。おはようございます。今朝は一段と……」
「はいはい、兄ちゃんどいたどいた。スープおかわり」
「ラルス。何だその言葉遣いは。どこぞのお貴族様にでもなられたか?」
「ほら早くお食べ、ラルスにリコ。スープはお兄ちゃんの分を残しなさい! さ、お父さんを見送ったら、ラルスの魔法学校初登校日なんだから、キレイにしなくっちゃね」
あー……。とラルスは言葉を失う。
人間の庶民というのはこんなものだったか。その辺の知識があまりなくラルスは少し置いてけぼりを食らっている。
「兄ちゃん、どったの? 悪いものでも食べた?」
そう言って俺の顔を覗き込むのは1、金髪碧眼でくりっとした目をしている少女。
まるで人形のような、とその人生で何度言われ、若いながらも男を虜にして、しかし察するに喋ると残念なのだろうと思われる美少女は、俺の皿からソーセージをヒョイッと盗んでパクっと食べた。
「おい、俺のソーセージだぞ?」
「ん、ああそう。ごめんごめん、手が滑っちゃって」
そう言いながらまたもやヒョイヒョイっと、今度はフライドポテトがそのぷるっとした唇をもつ控えめな口の中に消えていく。
「母上、妹が……」
「お兄ちゃんなんだから我慢しなさい」
「ええ?」
うーむ、理不尽だ。なるほど、これが全国の兄貴を困ら楽しんでいるという妹という生物、いや悪魔の呼称か。
俺は仕方がないのでスープにパンを浸しながら母に聞く。
「キレイにするとは母上、どういうことでしょうか」
「本当に今日はどうしたんだい? ああそうか、これからおめかしするからその準備ってことか。形から入れっていうけど、声から? 天才じゃないかね、うちのコは」
そういうことではないのだが……と思いつつ、ラルスはご飯を食べ終えた。
「今日から魔法学校の入学式だってことは忘れてやしないだろうね。あんたももう13なんだ。教会の学び舎から卒業して高等教育を受けるんだよ。まったく、あたしたちにしてみりゃ嬉しいことだよ。まさか補欠とはいえ国一番の学校に入れるんだからね」
魔法学校、補欠、国一番……断片的な言葉から記憶が浮かび上がってきた。
そう、ラルスはオズワルド王国一番の王立魔法学校、オズワルド魔法学校に入学するのだ。
しかも母が言うように入学式は今日これから。いや、今まですっかり忘れていた。
「お兄ちゃん、その顔。完全に忘れてたでしょ。友達にお兄がオズワルド魔法学校に入学するんだって自慢したんだから恥をかかせないでよ?」
「善処する。何、たかだか人間の子どものための学校だ。そう問題はあるまい。クックック」
「だから今日の兄の言葉遣いは何なのよ……」
「さあー、綺麗になった」
「うむ……ほう」
父親を見送ったあと、ラルスは下ろしたての制服に着替えさせられ、髪をとかされ、顔を洗わされた。
そのおかげでさっぱりとした少年らしい顔が鏡には写っている。
「きゃー! さすが私の子供ね、ラルスちゃんは。このまま学校に行ったら女子たちのハートを鷲掴みかも!」
母親というのはいつの時代どんな場所でも変わらないのだろうか? 自分の子供に対して異様に溺愛をしている。特にそれが同性でなく息子となれば、母というのは、まるで芸能人を見るミーハーなファンのようだ。
岡目八目。自分自身や肉親だとそうはいかないのだろう。どうしたって贔屓目に見てしまうのは、息子としては母の可愛げと思ったほうが良さそうだ。
「いってらっしゃーい」
「……」
母親と妹が見送ってくれる。母の方は晴れやかな笑みだが妹の方は何故か今になってぶすーっとしている。きっと自分はまだ教会で勉強をしなければならず、魔法学校という晴れやかな感じのする場所にいけないということが嫌なのだろうと察した。
「やれやれ」
俺は家族から見えない場所まで歩くと、そこから空中にジャンプした。
このあたりの地形を確認するため、空中を歩きながら学校まで行こう思ったのだ。
「なかなか微笑ましいご家族でしたね、魔王様」
今までどこかに控えていたのか、りっちーが現れ話しかけてきた。
「そうだな。俺としてはまだ接し方に困るが。なんというか平和な感じが、俺の闇と相反する」
「慣れですよ」
ふむ……と俺は遠くの方を見やる。
「街か。確か名前は…エレン。一本大きな川が中心部にあったはずだな」
「そうですねー。ここいらの年頃の子供の遊び場としても、ちょっとは有名かもです。悪ガキの集まるところもあるとか」
「ふむ。まあ今日は通るだけだ」
そう言って俺は空中散歩をしてエレンの街の方へ足を向けた。
転生魔王は劣等生 @nasu_umai
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