続・夕陽のサムライ

あきかん

第1話

 廃ビルの一角。半グレ集団クレイジードラゴンの溜り場の1つに俺と愛月伊織は乗り込んだ。

 所詮は素人。一人二人を相手にするのなら、相方の愛月だけでも十分だった。入口に構える男に胸ぐらを掴まれた愛月は、その手を捻り膝をつかせ、男の頭を掴み膝を顔にぶち込む。盛大な鼻血を垂らして倒れた男の顔を踏み潰す。

 死んだな、と俺は思った。鼻の下、人中に体重を乗せた踏み込みに容赦の欠片もみられなかった。

「いい感じだな。始めてにしては上出来だよ」

 と、俺は言った。

「からかわないで下さい」

 と、愛月は答えた。

 それから問題無く先へと進み目的の部屋に入った。そこではガラの悪い男どもがたむろしていた。

 俺は前に立つ愛月の首を強打した。愛月が倒れる。意識はあるのか、倒れながらもこちらを振り向いて、何で?という顔をしていた。

「悪いな。お前さんはここで死ぬ手筈になっている。上も承知だよ。ちゃんと死に水はとってやるから安心して死ねよ」

 と、愛月に言った。そして、周りの男を見渡す。

「こいつは好きにしていい。それからおじさんと遊ぼうや」

「舐めてんのか?ポリ公がよ!」

 と、愛月の近くにいた男が騒ぐ。俺はそいつの顎にジャブを入れる。男が少し揺れる。俺は右手で男の顎を掴み勢いよく押し倒した。

 ドン!と男の頭が床に叩きつけられた音が部屋に響く。そして、その男の頭から血が溢れ出した。

 俺はタバコを咥えて火を点けた。

「そいつをヤッてから死ぬか、それともやる前に死ぬか。好きな方を選べよ」

 紫煙と共に吐き出した言葉に目の前の男どもは戸惑っていた。目配せするも目当ての男はいない。顔も知らないが、ただのクズしかここにはいない。つまらない仕事だと俺は思った。

 ゴリゴリと肩甲骨を鳴らす。軽い準備運動。ナイフを構えた男の手首を掴む。腕を振る。ブルッと鳴ったかの様に手首を掴んだ男の腕が波うった。男の肩と肘が外れた感触が掌に伝わる。

「なんだ?もう始めんのかよ。一服ぐらい待ってほしかったがな」

 俺は言った。奥でソファに座っている男が周りの連中に目配せする。男どもがそれぞれ武器を手にする。

 バットを振り上げて向かって来た。

 振り下ろされたバットを軽く撫でる。バットは明後日の方向へと振り下ろされて、男は転んだ。

 ナイフを突き刺て来た。

 俺は突き出されたナイフの外側から腕を回し男の目に親指を突っ込む。ナイフが頬をかすり血が垂れた。俺は突っ込んだ指に力を入れて男を投げ飛ばす。足下にその男の目玉が落ちた。

 横なぎに鉄パイプが迫って来た。

 俺は左手でそれを掴み捻る。鉄パイプを握っていた男は俺の後方へと吹っ飛んでいった。

 俺はそのまま一歩踏み出す。下に転がる男の肩を踏み砕いた。そして、臍の下、丹田に込めた力を右手に乗せて突き出した。

 パン!と空気を割く音と共に目の前の男の胸に俺の右拳が刺さる。胸骨を粉砕した男が男に向かって倒れてくる。その男の顔に頭突きを食らわせ横に捨てる。顔に男の返り血がかかった。

「さてどうする?後は3人か。お前らが雇ったという本国の用心棒にでも助けを頼むか?」

「舐めんじゃねえよ。そんな恥かいて生き残れるほど俺達は甘くねえ」

「まぁ、どの道お前らはここで皆殺しだけどな」

 と、俺は言った。座して俺を睨んでいた男が拳銃を取り出した。

 バン!ギン!と轟音が部屋に響く。俺は握っていた寸鉄を拳から出し弾をはじいた。コンクリートの壁に弾が埋まる。流石に右手が痺れた。

 男は続けて拳銃を撃った。動きが止まっていた両隣の男がその隙に拳銃を取り出している。

 俺は銃弾を避け、左の男に寸鉄を投げ飛ばした。首に刺さる。

 俺は右へと回る。銃弾が俺の残像を撃ち抜き続ける。下手くそ、と内心思った。

 右に立つ男と向かい合う。銃口が俺の正中線を捉えていた。

 避けられない。流石のこの距離で撃たれたら終わりだ。引き金を引くのが速いか、俺の攻撃が速いか。少なくとも俺がこいつを倒すには一歩踏み出さなければならない。その間に引き金を引くことなど言葉を覚えたてのガキでも可能だ。

 俺は咄嗟に膝の力を抜いた。傍目からはコケた様に見えただろう。

 俺の頭があった場所に銃弾が飛ぶ。俺は男の足首を掴む。手の内の小指から力を入れる。刀を握るように。そして、その男はバランスを崩し倒れた。

 俺は男の足首を握ったまま振り回す。未だに座っている男に向かって。

 ダン!と座っている男ごとソファが倒れる。

 ケヒッと、笑いが漏れた。残心が出来てないな、と何処かで思う。

 倒れた男に飛びかかる。

 拳銃を左手で握る。

 右拳を男の顔面に振り下ろす。

 二度、三度、四度、五度、六度……

 何か口にしている。

 構わず拳を振り下ろす。

 男は拳銃から手を離した。

 俺はそれを右手に持ち替える。

 まだ動いていた別の男をそれで撃った。のたうち回っていた男どもはそれで動きを止めた。

 立ち上がり回りを見渡すと愛月がまだ生きていた。

「助けて下さい」

 と、愛月は力無く言う。

「言っただろ。お前はここで死ななければならないって。安心しろよ。仇はとってやるからさ」

 俺は愛月を撃った。それはこれから始まる本物のカンフー使いとの決闘の合図でもあった。

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