第十六話 最終手段は、強制お漏らしでした。

 冬、村は例年にない程の豪雪に見舞われて、辺り一面雪景色に変わっていた。

 両親は雪が降ってげんなりしていたが、俺達子供からしたら雪とは最高の遊び道具だ。

 ニーナやティア、レミを相手に雪合戦したり、ガウ君と協力して雪だるまを作ったり。

 

「カマクラで食べる汁物って美味しいね」

「私……こういうの好き、かも」

「私も好き。ユーティ、はい、あーん」

「ん、ウメェ」

「ニーナだけズルい。はいユーティ、ティアのもね」

「はいよ……って、ティアお前、キノコ食べれないから食わせてるだけだろ」

「うふふっ、ユーティくん、お肉だよ」

「肉ウメェ」

「ユーティお水飲む?」

「飲む」

「じゃあ、誰の飲む?」

「んー、全員の」


 変態とか言われながらも、狭いカマクラで四人座りながら汁物をすする。

 とても美味しくて、とても平和で、ずっとこのままでいたいって思っていた。

 だけど、俺には冬が終わったら、魔術学校が待っている。

 一度入学したら最後、十六歳の卒業まで、この村に帰ってくることが出来ない。


「ごめんねユーティ、実は、村長さんたちからのお願いでもあるの」


 両親に魔術学校に行きたくないって伝えるも、実は魔術学校行きは村全体で決めた事なのだと知らされた。

 俺という魔術師の才能をこの村で埋もれさせるには惜しいと、多数の声が上がったらしい。

 他にも、魔術で人を傷つけてしまった者は、魔術学校で理念を学ばないといけないという決まりもあるのだとか。


 俺個人でどうにか出来る内容ではないと知り、子供の身ながらに受け入れる覚悟をした。

 その事を三人に伝えると、各々寂しそうな顔をするも、しょうがないよねと眉を下げる。


 その日から、皆がちょっとだけ優しくなった。

 一緒にいる時間が増えた、そう思えた冬も、あっという間に終わりを迎える。


 牧場の雪が溶け始め、緑色をした牧草が見え始める頃。

 ユーティ・ベット・トリミナル。俺は六歳の誕生日を迎える。


 無駄に朝日が眩しくて、朝露に濡れた草花がお辞儀をしている。

 春、俺が魔術学校へと入学する日が、やってきてしまった。


「ユーティ、魔術学校に行っても、私達のこと忘れないでね」

「忘れる訳ないだろ。それよりも俺が帰ってくるまで、ドラゴン牧場の経営続けておけよ」

「うん……ユーティ、私、寂しい」


 ニーナに抱き締められると、なんだか草の匂いがした。

 ずっと側で成長出来ると思っていたのに、人生、何があるか分からないな。

 

「ユーティ……私との約束、覚えてる?」

「ティアとの約束、ああ、覚えてるぜ」

「そ、なら別にいいんだけど。ちゃんと成長して帰って来るのよ、バカユーティ」


 言葉とは裏腹に、ティアの目にも沢山の涙が溢れていた。

 ティアとの約束、責任を取るって話だったと思うけど。

 結局、何をどう具体的に責任を取るのかは、未だに理解していない。

 でも、そんな事を言う空気でもなかったから、大人の対応とやらで頷くだけにした。


「ユーティくん」

「レミ」

「私も頑張って、ユーティくんについて行けるようにするからね」

「ついて来るって、魔術学校にか?」

「ふふっ、魔術学校は私には入れないよ。魔術適性がないって、あの時思い知ったから」


 変質者に襲われたあの日、レミは体内の魔術切れを起こし、意識を失ってしまっている。 

 魔術適正の高い者は、体内の水を消費しきった後、自身の魔力にて補填する事が可能らしい。

 俺がサウナで何時間も蒸気を出せていたのも、そこら辺が関係している。

 レミはそれが出来なかった、つまりは魔術適正がないということ。


「私、頑張る。貴方と一緒にいたいから」


 そう言うと、レミはあの日のように、俺の頬にキスをした。

 俺の肩に手を乗せながらするキスは、とても柔らかくて、良い匂いに包まれる。

 

「レミだけズルい! 私も!」

「あ、私だってしたい!」


 続けざまにティアとニーナからも頬にキスをされて、そのまま二人ともわんわん泣き始めた。

 せっかくの出立の日だってのに、洋服が涙でびちゃびちゃだ。

 でも、これだけ愛されてたんだなって知る事が出来て、本当に良かった。


「じゃあ、行って来る」

「ユーティ、……ぐすん、洋服汚しちゃって、ごめんね」

「いいよ。三人に手紙、出すからな」

「絶対だよ、絶対に出してよね!」

「ユーティくん、私も手紙、出すからね」

「ユーティ……いってらっしゃい」


 出した所で、手紙がいつ届くのか分からない。

 それぐらいに遠い場所にある、パラポネア魔術学校。

 寂しくないと言えば嘘になる、でもこれは、俺が勇者になる為に必要な事だから。

 勇者になって、三人同時に相手出来るぐらい立派な男になってみせる。


 じゃあ、それまで、今はサヨナラだ。


☆★☆★☆


「ママ」

「なぁに、ユー君」

「魔術学校の制服って、水魔術教団みたいな制服なんでしょ?」


 魔術を使う人達は、基本的に薄着が多い。

 体内の魔力を放出する時に、金属製の鎧だと効率が悪いからだ。

 つまり、魔術学校の女子の制服は、全員がスケスケな可能性が高い。

 しかも水魔術ときたら男子はほとんど適性がない、つまりはほとんどが女子。


 四十人のクラスで男子一人。 

 つまりは女子三十九人に対し、俺一人で授業を受けることになる。


 39:1の比率、しかも制服はスケスケ。

 これは天国なんじゃないのか?

 学校という名の天国なんじゃないのか!?

 

 俺の目的は勇者になって女の子と仲良し♡をする事だ。

 全力で学んできてやる……水魔術に関しては、俺が極めてやるっ!


「そうねえ……魔術学校は男子校だから、多分制服は違うんじゃないかな」

「男子校? で、でも、水魔術って男の子はほとんど適性ないんだよね?」

「そうよ? だから水魔術を学ぶ時だけ、特別にママが先生してあげるからね」


 魔術学校が男子校?

 水魔術を学ぶ時だけ母親が先生になる?


「ママ!」

「どうしたのユー君」

「僕、魔術学校行きたくない!」

「どうしたのユー君!」

「ママ、ごめんね!」

「私の手首掴んで……ユー君!?」


 ごめんねママ! 

 僕、水魔術結構得意になってて、色々な場所から意図的に水を出せるようになったんだ!


「ママの股間から、スーパウルトラオシッコビーーーーーーーム!!!!」

「え、ええええ!? ユー君!? ユー君止めて! これじゃママがお漏らししたみたいに見えちゃうじゃない!」

「御者さん!」

「ユー君!」

「ママがお漏らししました! 大至急村に戻って下さい!」

「ユー君!?」


 いやだ! 絶対に嫌だ! 俺は村に帰るんだ!

 可愛い幼馴染三人と明るい青春を生きるんだ!

 男子校なんか死んでもいくもんかーーーーー!


★☆★☆★☆


第一部、五歳編――完結――


第二部は新作として投稿して参ります。

宜しければ明日投稿の作品のフォローをお願い致します。


タイトル


『女の子と『仲良し♡』がしたくて勇者目指した俺。水魔術を極めたので、三人の幼馴染と一匹の婚約者と共に旅に出たいと思います』


 十六歳になったユーティ君と、彼を取り巻く幼馴染の三人と一匹がラブラブ※※してますので、お楽しみ頂ければと思いまする。です。

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女の子と『仲良し♡』がしたいので勇者を目指します。 書峰颯@『幼馴染』コミカライズ進行中! @sokin

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