第四章 河の左・河の右その二

2

AI列車「疾風」は、ゆっくりと分断惑星の”停車地”に着いた。

そこは、小高い丘陵地だった。

疾風の声がした。

「ミナサン、ミナサンニハワタシガミエテイマスガ、分断惑星ノニンゲンニハ、ワタシハヤテハ、ミエナイジョウタイデス。ナゼナラ、ワタシハヤテハ、コノ地デハ、認識サレテイナイカラデス。シタガッテ、コノチニオリラレルカタハ、コノチノニンゲンノ、エンギヲシテクダサイ。ケッシテ、リョコウシャトキズカレナイヨウニ。モシ、キズカレタラ、コノ分断惑星からダッシュツデキナクナルカラデス。ソレホド、コノチハ、ヨソモノヲキラウノデス」

疾風のアナウンスに、一平も勇気も緊張してうなずいた。

同様に、他に降り立った乗客達もうなずいていた。

大型重機が、地を敏速に行動していた。まるで、積み木のごとく高層マンションが建てられていく。

一平と勇気は、小高い丘に立ちその様子を見下ろしていた。

二人の手に紙が現れる。

『花蓮メモ』とサインされていた。

「疾風を一歩でも出たら、ここからは、私、花蓮がガイドするわ。私の指示には絶対従ってもらう。逆らったらここがあなたの墓場になるからね!」

二人は唾を飲みこむ。

「花蓮は、たしか疾風の上司なんだよね」

一平は勇気に囁く。勇気は頷き囁き返す。

「そうです。社長の明智さんが言ってました。少しおっかないですね」

一平は笑いを浮かべる。

二人の着ていた服装も、スーツの上下ともグリーンに揃えられた。ワイシャツに蒼のネクタイだ。

再び『花蓮メモ』が現れた。

「この地域は、産業生産を絶対視している。規律を重んじ、整然とした同調を好む。だから、この服装にした。何か質問はあるか?」

一平が質問する。

「”この地域では”と言いましたよね。では、ここではカジュアルな服装は禁止なのですか。さらに、河向こうでは、違う服装をしなければならないのですか」

二人の前の空間が歪み、揺れて皮肉な笑顔が現れた。

「一平、お前鋭いな。良い質問だ」

「そのとおり。川向うの地域は、服装は自由だ。そのかわり無節操で規律もなく、生産性も低く従って住民は貧しい。

人間にとってどちらが幸福なのだろうな。さ、そろそろガイドは終わりだ。後は、お前達で考えろ。私は消えるよ」

二人の前の空間の歪みが消えた。


「なんだか嫌なところですね。一平さん」

勇気は苦いものを呑み込んだように顔を歪めた。

「そうだな。旅は楽しいばかりじゃないからね。

花蓮は、ぼくたちを試しているつもりだよ」

「試すって?どういう意味なんですか」

勇気は不機嫌に一平に訊く。

「”これからの旅にお前たちはついてこられるかってね」

一平は彼の推理を答えた。

黙って一平の推理を聴いていた勇気は、空を見上げて叫んだ。

「花蓮!バカにするんじゃないわよ!AIかなんだか知らないけれど、人間様にナメたまねしないでよね!」

かすかに見上げた空に浮かぶ白い雲に一筋の黒煙が浮かびニヤリとするかのようにカーブした。


再び歩き出した二人の背に、銃器のかすかな音がし、それに人の声が続いた。

「元気なお嬢さんねえ。雲しかない空に大声で叫ぶなんて、A都の住民じゃないね。いっしょに来てもらうよ。」

二人は、手を挙げたまま暗がりの土手を行くしかなかった。















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

隣にいるのは @kin1964

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ